어린왕자이야기

ヴォイス~命なき者の声~ 第1話 본문

나의 공부/Drama★Story

ヴォイス~命なき者の声~ 第1話

grandguy 2009. 4. 27. 09:45

(うしな)われた(いのち)(すく)医学(いがく)

『この(くに)では死因(しいん)()からないまま
  (ほうむ)られる人々(ひとびと)がまだたくさんいる』
日本(にっぽん)における(へん)死体(したい)(かず)は、毎年(まいとし)およそ15万(いちごまん)(にん)
犯罪(はんざい)(せい)(うたが)われるものは大学(だいがく)法医学(ほういがく)教室(きょうしつ)へと(はこ)ばれる』
『そこには
 (のこ)された遺体(いたい)から(こえ)()こうとする(もの)たちがいる』

(ひと)()んだらおしまいだ。
 (ぼく)らはそう(おも)っていた。
 医学(いがく)とは、()えゆく(いのち)(すく)うため、
 ()(すこ)しでも(さき)()ばしにするために、存在(そんざい)するのだと、
 そう(おも)っていた。
 医大(いだい)(はい)って4(ねん)()(ふゆ)
 (ぼく)らは、(うしな)われた(いのち)(すく)医学(いがく)出会(であ)った。」

解剖(かいぼう)見学(けんがく)気絶(きぜつ)してしまった(はね)()(あきら)佐藤(さとう)智仁(ともひと))を台車(だいしゃ)()せて(はこ)
加地(かじ)(だい)()(あきら)(ふとし))、石末(いしずえ)亮介(りょうすけ)生田(いくた)()(しん))、久保(くぼ)(あき)佳奈子(かなこ)石原(いしはら)さとみ)、
桐畑(きりばたけ)(あきら)(たいら)遠藤(えんどう)(たけし)(わたる))。
解剖(かいぼう)(はじ)まって5(ふん)()たなかったなー。」と(だい)()
解剖(かいぼう)やるたんびに(よわ)くなってねーか?
 普通(ふつう)()れてくもんだろ?」と亮介(りょうすけ)
一番(いちばん)気絶(きぜつ)しそうにない(かお)してんのにね。」と佳奈子(かなこ)
「アキ。」と(だい)()
「うん?」
昨日(きのう)駅前(えきまえ)のラブホでシャワー(はい)った?」
「は!?そんなとこ()くわけないでしょ!」
(かみ)()から昭和(しょうわ)(かお)りがする。」
昭和(しょうわ)(かお)り!どんな(にお)いだよ。」亮介(りょうすけ)(わら)う。
「ラブホ!?」と(あきら)(たいら)
「あ、ほんとだ。」亮介(りょうすけ)佳奈子(かなこ)(かみ)(にお)いを確認(かくにん)する。
「もっといいとこ()けよ。」と(だい)()
「・・・」
バシッ!佳奈子(かなこ)のパンチが(だい)()(ほお)()ぶ。

ヶ月(かげつ)(まえ)
心臓(しんぞう)(がい)科学(かがく)ゼミ」の合格(ごうかく)発表(はっぴょう)()つめる(あずま)(りん)大学(だいがく)医学部(いがくぶ)(ねん)(だい)()
「あったか?」と亮介(りょうすけ)
「ない!」
「お(まえ)さ、学期(がっき)(まつ)成績(せいせき)ちょっと()がったからって
 一番(いちばん)人気(にんき)のゼミ(もう)()んだりするからだろ!」
倍率(ばいりつ)(たか)いから()ちてても仕方(しかた)ないんだけどさー。
 (おれ)()かってた()がする。」
「はい?」
「だってここだけ(へん)だろ!
 50(おと)(じゅん)(なら)んでんのに、(なに)で? 
 笠原(かさはら)加藤(かとう)(あいだ)に、安田(やすだ)!?」
(たし)かに、笠原(かさはら)加藤(かとう)(あいだ)安田(やすだ)という生徒(せいと)名前(なまえ)()()けられてある。
「ホントだ!
 でも、(べつ)に、お(まえ)がここに(はい)ってたかどうかわかんねーじゃん。」
(おれ)名前(なまえ)は?」
加地(かじ)(だい)()。」
笠原(かさはら)加藤(かとう)・・」
「かさ、かじ、かと・・あ、(はい)る!」
「どうして名前(なまえ)()されてんだろ・・」
()た!どうして。じゃ、(おれ)()てくるから、(あきら)めな。」
人差(ひとさ)(ゆび)(くちびる)()ててじーっと合格(ごうかく)発表(はっぴょう)()つめる(だい)()

その(ころ)佳奈子(かなこ)脳神経(のうしんけい)(がい)科学(かがく)教授(きょうじゅ)(しつ)(まえ)()つとドアをノックし・・。

(だい)()!いつまで()てるんだよ、()こうぜ。」
亮介(りょうすけ)名前(なまえ)あったの!?」
「ああ。法医学(ほういがく)ゼミ。」
「え?法医学(ほういがく)?どうして?」
(だい)(いち)志望(しぼう)なんだよ。」
親父(おやじ)病院(びょういん)消化(しょうか)()内科(ないか)()ぐって約束(やくそく)でここに(はい)ったんじゃないの?」
「・・・いいのいいの!(おれ)は、一生(いっしょう)他人(たにん)小腸(しょうちょう)大腸(だいちょう)(のぞ)()ないし。
 やっぱりホルモンは、治療(ちりょう)するより()べるに(かぎ)りますよね。」
「カルビしか(たの)まないくせに。」
「あー、なんだ(また)(だい)()一緒(いっしょ)か。」
(なに)が?」
「お(まえ)名前(なまえ)あったぞ。」
「は!?」

法医学(ほういがく)ゼミの合格(ごうかく)発表(はっぴょう)をチェックする(だい)()
「どうしてここにあるの!?」
()らねーよ。
 ゼミなしだと単位(たんい)(からし)いぞー。
 ま、(うん)()かったと(おも)って(はい)っておけよ。」
(おれ)ちょっと()ってくる!」

(だい)()(はし)()ったあと、亮介(りょうすけ)合格(ごうかく)発表(はっぴょう)()つめながら(ちち)言葉(ことば)
(おも)()していた。
今更(いまさら)自分(じぶん)進路(しんろ)()めたいなんて、
 出来(でき)(わる)いお(まえ)がどの(めん)()げて()える。
 消化(しょうか)()(けい)じゃ、島田(しまだ)教授(きょうじゅ)のところなら、まずまずの(はく)()く。
 電話(でんわ)()れておいたから、安心(あんしん)しろ。」

神経(しんけい)(がい)科学(かがく)教授(きょうじゅ)(しつ)
(かんが)(なお)()はないのかね?
 久保(くぼ)(あき)(くん)みたいに優秀(ゆうしゅう)()が、よりによって(なに)法医学(ほういがく)なんだね?
 患者(かんじゃ)(なお)すために医療(いりょう)(まな)ぶ。
 それが、本来(ほんらい)医学(いがく)姿(すがた)だと(おも)わないか?」と教授(きょうじゅ)
患者(かんじゃ)(すく)うだけが、医学(いがく)なんですか?
 死因(しいん)解明(かいめい)は、(いま)でも医学(いがく)のオプションに()ぎないんですか?
 (わたし)はそうは(おも)いません。
 失礼(しつれい)します。」

(だい)()法医学(ほういがく)教授(きょうじゅ)(しつ)教授(きょうじゅ)佐川(さがわ)文彦(ふみひこ)時任(ときとう)三郎(さぶろう))を(たず)ねていく。
「あの・・」
「・・・おぉ!加地(かじ)(だい)()!」
「ええ。」
「よく()た!まーまー、(はい)って!」
「ここで大丈夫(だいじょうぶ)です。すぐ(かえ)りますから。」
「まーそんなこと()わずに、ゆっくりしていけよ。
 (いま)美味(おい)しい中国(ちゅうごく)(ちゃ)()れてやるから。
 これが美味(うま)いんだ!」
掲示板(けいじばん)名前(なまえ)移動(いどう)させました?」
「うん?」
(おれ)心臓(しんぞう)外科(げか)ゼミに()かってたんじゃないんですか?」
「・・・」
「どうしてそんなことしたんですか?」
「ふふふ。じゃあ()くけど、心臓(しんぞう)(がい)科学(かがく)ゼミを(こころざ)した理由(りゆう)は?」
「・・・うーん、(いま)注目(ちゅうもく)されている分野(ぶんや)だし、
 見学(けんがく)した(とき)活気(かっき)あるゼミだなーって。」
「それだけか?」
「・・・心臓(しんぞう)最後(さいご)(とりで)かなと(おも)ったんです。
 心臓(しんぞう)()まってしまったら・・どんな医学(いがく)意味(いみ)()さないから。」
本当(ほんとう)にそう(おも)うのか?」
「え?」
()くなった(ひと)(こえ)(みみ)(かたむ)ける。
 そういう医学(いがく)がってもいいと(おも)わないか?」
「・・・」
「よし出来(でき)た!
 (おれ)学生(がくせい)時代(じだい)自分(じぶん)法医学(ほういがく)(えら)ぶなんて(おも)ってもみなかったよ。
 それがある(とき)突然(とつぜん)教授(きょうじゅ)に、お(まえ)法医学(ほういがく)()いている、って
 ()われた。」
「え?」
「ま、理由(りゆう)はそれだけなんだけどな。
 きっかけなんて(なに)だっていいんじゃないか?」
「・・いやでも。
 でも、どうして(おれ)を?」
()になるか?
 まあ(すわ)れ。」
()になります。だからこうして()きに()てるんです。」
「そういうところだよ。」
「え?」
合格(ごうかく)不合格(ふごうかく)か、普通(ふつう)学生(がくせい)結果(けっか)にしか興味(きょうみ)がない。
 でもお(まえ)(ちが)う。
 結果(けっか)よりもまず理由(りゆう)
 どうして(なに)で、どうして(なん)でってな。
 いそうでいないんだよな、そういうヤツって。
 最初(さいしょ)に、()った(とき)から()おうと(おも)ってたんだけどな、
 お(まえ)法医学(ほういがく)()いている。」
「・・・」
「それに、もう手続(てつづ)きしちゃったからなー。()には()けないな。」
「・・・」

後日(ごじつ)佐川(さがわ)研究(けんきゅう)(しつ)には(だい)()亮介(りょうすけ)佳奈子(かなこ)(あきら)(たいら)(はね)()(あきら)
ゼミ(せい)5(にん)と、(じょ)(きょう)夏井(なつい)(がわ)玲子(れいこ)矢田(やだ)亜希子(あきこ))の姿(すがた)があった。
(いま)(くば)ってもらっているカリキュラムに(したが)って授業(じゅぎょう)(すす)めていきます。
 (わたし)がいない(とき)彼女(かのじょ)実習(じっしゅう)から講義(こうぎ)までを担当(たんとう)します。
 玲子(れいこ)(くん)一言(ひとこと)!」
(じょ)(きょう)夏井(なつい)(がわ)玲子(れいこ)です。よろしく。」
「あの(かお)すっげータイプなんですけど。」亮介(りょうすけ)(だい)()にささやく。
性格(せいかく)キツそうじゃん。」
「そこがいいんだよ。」
「そこ(なに)(しゃべ)ってるの?やる()ない(ひと)()てっていいのよ。」と玲子(れいこ)
「すみません。」と亮介(りょうすけ)
「ゼミ(せい)(きみ)たち5(にん)全員(ぜんいん)。」
「・・・」
今日(きょう)からこの5(にん)で、実習(じっしゅう)課題(かだい)()()んでもらいます。
 みんな仲良(なかよ)くするように、いいね。」
「はい。」

法医学(ほういがく)第一義(だいいちぎ)(ひと)死因(しいん)解明(かいめい)すること。
 ただ、死因(しいん)究明(きゅうめい)制度(せいど)がちゃんと整備(せいび)されていない日本(にっぽん)では、
 非常(ひじょう)()した遺体(いたい)のおよそ(いち)(わり)しか解剖(かいぼう)がなされていないのが現場(げんば)です。」
「たった(いち)(わり)ですか・・」と亮介(りょうすけ)
解剖(かいぼう)(おこな)医師(いし)不足(ふそく)しているし、解剖(かいぼう)したくても予算(よさん)都合(つごう)(じょう)
 出来(でき)ない地域(ちいき)(おお)いの。」と玲子(れいこ)
死者(ししゃ)(からだ)は、その(ひと)最後(さいご)(つた)えたかった言葉(ことば)明確(めいかく)に、
 (かた)りかけてくれます。
 法医学(ほういがく)(しゃ)にしか()こえない(こえ)がある。
 その(こえ)をつなげるのが、(おれ)たちの仕事(しごと)だ。」

「この解剖(かいぼう)(しつ)では、司法(しほう)解剖(かいぼう)行政(ぎょうせい)解剖(かいぼう)()わせて年間(ねんかん)(やく)300(たい)解剖(かいぼう)
 (おこな)っているわ。」と玲子(れいこ)
「300(たい)!?」と亮介(りょうすけ)
解剖(かいぼう)ってこんなもの使(つか)うんですか?」ハブラシやおたまを()()(だい)()
「それ、さっき使(つか)ったばっかりだからあまり(さわ)らないほうがいいと(おも)うけど。」
(だい)()玲子(れいこ)言葉(ことば)(おどろ)いて道具(どうぐ)()とす。

解剖(かいぼう)終了(しゅうりょう)()、この組織(そしき)(へん)顕微鏡(けんびきょう)検査(けんさ)します。
 肉眼(にくがん)ではわからない病変(びょうへん)を、組織(そしき)(がく)(てき)検査(けんさ)するの。
 ねえ(きみ)、これ(さき)実験(じっけん)(しつ)(はこ)んでおいて。
 蕪木(かぶらき)さん、()てるから。」玲子(れいこ)大樹(たいじゅ)(びん)(わた)す。
「え?(おれ)?」
「お(ねが)いします。」
(おれ)()きましょうか!?」と亮介(りょうすけ)
(きみ)には(たよ)んでない。」
(なに)かあれば()ってください。(なん)でもやりますから。」
「じゃあ、とりあえず(だま)って。」
「はい、頑張(がんば)ります。」
「ドント・マイケル。」(だい)()亮介(りょうすけ)(かた)(たた)く。
(なに)()ってんだ。(はや)()けよ!」

(だい)()(となり)部屋(へや)(びん)()っていくと、蕪木(かぶらき)技官(ぎかん)泉谷(いずみや)しげる)は
ヘッドフォンをし(だい)音量(おんりょう)音楽(おんがく)()きながら作業(さぎょう)していた。
「あのー。」
(だい)()(こえ)()け、(かた)(たた)く。
(だれ)だお(まえ)!」
(あたら)しくゼミに(はい)った4(ねん)加地(かじ)です。
 あの、これ(はこ)べって()われて。」
「そこに()いとけ。」
「あ、Perfume!」ヘッドフォンの(おと)()れに()づく(だい)()
「なんだお(まえ)()いてんのか?」
「はい、武道館(ぶどうかん)()きました。」
「チッ!
 今年(ことし)何人(なんにん)(はい)ったんだよ。」
「あ、5(にん)です。」
「それは相変(あいか)わらずしけたゼミだねー。」
「それ(なに)ですか?」
人間(にんげん)。」
「え?」
心臓(しんぞう)(はい)肝臓(かんぞう)(のう)
 ここにあるのは全部(ぜんぶ)(もと)一人(ひとり)人間(にんげん)だ。」
「・・・・・」

そこへ玲子(れいこ)がやって()た。
蕪木(かぶらき)さん、これだけ(べつ)検査(けんさ)()けてほしいんですけど。」
失礼(しつれい)しまーす。」(だい)()部屋(へや)()ていく。
「お(ねが)いしますね。」と玲子(れいこ)
「はいよ。」
蕪木(かぶらき)さん、今年(ことし)はゼミ(せい)何人(なんにん)(のこ)ると(おも)います?」
「また()けるのかい?」
「もちろん!今年(ことし)こそはリベンジしないと。」
「じゃあお(さき)に。」
「いいんですか?(わたし)今年(ことし)結構(けっこう)自信(じしん)あるですよ。」
「どうぞ。」
「ゼロ!」
「じゃあ(おれ)は、5!」佐川(さがわ)教授(きょうじゅ)(おく)部屋(へや)から()てきた。
「まったく、お(まえ)(たち)二人(ふたり)は!()(ごと)ダメダメ!!」と蕪木(かぶらき)
「まー(むかし)から(おれ)は、番狂(ばんくる)わせを期待(きたい)しちゃうタイプでね。」と佐川(さがわ)

佐川(さがわ)先生(せんせい)電話(でんわ)
 (みなみ)府中(ふちゅう)(しょ)大和田(おおわだ)さんからです。」
「はい。
 お電話(でんわ)()わりました、佐川(さがわ)です。
 司法(しほう)ですか?行政(ぎょうせい)ですか?
 許可(きょか)(じょう)発行(はっこう)されていますか?
 遺体(いたい)状況(じょうきょう)は?
 わかりました。じゃあ1()から(はじ)めたいと(おも)いますので
 ご遺体(いたい)搬送(はんそう)をお(ねが)いします。
 はい失礼(しつれい)します。」

電話(でんわ)()ると、佐川(さがわ)玲子(れいこ)()う。
「1()から司法(しほう)解剖(かいぼう)
 それから5(にん)()()ってもらおうか。」
「はい、わかりました。
 ()きましょう。」
「はい・・」戸惑(とまど)いながら(せき)()つ5(にん)

解剖(かいぼう)準備(じゅんび)(しつ)
()れない()つきで準備(じゅんび)する5(にん)
準備(じゅんび)出来(でき)た?」と玲子(れいこ)
(いま)()きます!」

不安(ふあん)そうに解剖(かいぼう)(しつ)へと移動(いどう)していく(だい)()
遺体(いたい)()にすると、(おお)きく(いき)()む。
(みなみ)府中(ふちゅう)(しょ)刑事(けいじ)さん。」玲子(れいこ)紹介(しょうかい)する。
大和田(おおわだ)だ。」
大和田(おおわだ)刑事(けいじ)山崎(やまざき)(たつき)(はん))が5(にん)(かお)警察(けいさつ)手帳(てちょう)(ちか)づける。
死亡(しぼう)(しゃ)は、市原(いちはら)良平(りょうへい)50(さい)
 職業(しょくぎょう)電気(でんき)工事(こうじ)()
 現場(げんば)はオフィス(がい)建設(けんせつ)現場(げんば)(まえ)
 (だい)(いち)発見(はっけん)(しゃ)()つけたのは、昨日(きのう)日曜(にちよう)午後(ごご)3()20(ふん)(ころ)
 そのときはわずかに意識(いしき)があったそうだが、病院(びょういん)()もなく、死亡(しぼう)
 現場(げんば)状況(じょうきょう)から()て、(ちか)くのビルに修理(しゅうり)()かう途中(とちゅう)
 落下(らっか)(ぶつ)下敷(したじ)きになった模様(もよう)。」
落下(らっか)(ぶつ)というのは?」と玲子(れいこ)
「まだ()つかってない。
 (おそ)らく犯人(はんにん)は、証拠(しょうこ)隠滅(いんめつ)(ため)()()ったんだろう。」
他殺(たさつ)なの!?」と亮介(りょうすけ)
「タメ(くち)!?」と大和田(おおわだ)
「あ、すみません。」
事件(じけん)当日(とうじつ)建設(けんせつ)現場(げんば)(やす)みだった。
 作業(さぎょう)(ちゅう)(あやま)って資材(しざい)落下(らっか)した可能(かのう)(せい)はない。
 犯人(はんにん)は、(やす)みだった現場(げんば)侵入(しんにゅう)し、市原(いちはら)さんを(ねら)って故意(こい)()とした。
 そう(かんが)えるのが妥当(だとう)です。」
「・・・」

「では(はじ)めます。
 よろしくお(ねが)いします。」
「よろしくお(ねが)いします。」
「まず最初(さいしょ)頚部(けいぶ)から恥骨(ちこつ)上部(じょうぶ)まで正中(せいちゅう)切開(せっかい)します。」

「うわ・・すげー・・」(かお)をしかめるゼミ(せい)たち。

皮下脂肪(ひかしぼう)2センチ。」と玲子(れいこ)
鎖骨(さこつ)()れてるな。写真(しゃしん)(ねが)いします。」と佐川(さがわ)
「はい。」
脚立(きゃたつ)()って写真(しゃしん)()警察官(けいさつかん)

(つぎ)横隔膜(おうかくまく)(たか)さを、肋骨(ろっこつ)(した)()()れて(はか)ります。」

(こた)えきれずに(たお)れこむ(あきら)
大丈夫(だいじょうぶ)ですか?」(あきら)(たいら)(こえ)()ける。
(だい)()(まばた)きもせずに解剖(かいぼう)呆然(ぼうぜん)()つめている。
「おい、お(まえ)大丈夫(だいじょうぶ)か?」と亮介(りょうすけ)
「・・・あの(ひと)さ、昨日(きのう)まで普通(ふつう)()きてたんだよな・・。」
()(なみだ)()かべてそう(つぶや)(だい)()
「・・・」

解剖(かいぼう)()わり研究(けんきゅう)(しつ)(もど)った(だい)()たち。
亮介(りょうすけ)報告(ほうこく)(しょ)()()げる。
(ぜん)頭骨(ずこつ)陥没(かんぼつ)骨折(こっせつ)
 (ぜん)頭骨(ずこつ)(こうむ)った衝撃(しょうげき)は、およそ10メートルの(たか)さから30キロ程度(ていど)の ら  落下(らっか)(ぶつ)()たったものに相当(そうとう)する。
 死因(しいん)は、その衝撃(しょうげき)による、頚椎(けいつい)骨折(こっせつ)による(けい)(ずい)損傷(そんしょう)、だってさ。」
「30キロのものって()われても、なかなか(おも)()かばないですよね。」と(あきら)(たいら)
薄型(うすがた)液晶(えきしょう)テレビ46インチがおよそ30キロ。
 (ぜん)自動(じどう)洗濯(せんたく)()もそんなもんだよ。」
(あきら)(しょう)()いながらソファーから()()がる。
(くわ)しいね。
 ね、(ほか)にも(なに)か、あるか?」と亮介(りょうすけ)
子供(こども)(よう)のベッド。高級(こうきゅう)リクライニングチェア。12(じょう)のペルシャ絨毯(じゅうたん)。」
「いや、絨毯(じゅうたん)じゃ(ひと)()なないと(おも)いますけど。」(あきら)(たいら)(わら)う。
「30キロぐらいな(もの)(こた)えてるだけだろ!」
「はい・・すみません。」
「まーまーまー。
 でもさ、この(ひと)(なに)でおでこの(あた)骨折(こっせつ)しているんだと(おも)う?」
「・・・普通(ふつう)(うえ)から(もの)()ちてきたら、頭頂(とうちょう)()だよね。」と(だい)()
(うえ)見上(みあ)げてたから。」と佳奈子(かなこ)
「あ・・(たし)かに。」と(だい)()
(かんが)えなくてもすぐわかりそうなことだけど。」
「じゃあどうして上向(うわむ)いたの?」
「いや()らないよ。」
(うえ)()るときねー。」と亮介(りょうすけ)
(はね)()(くん)は?どんな(とき)上向(うわむ)く?」
夕焼(ゆうや)()たり(ほし)()(とき)。」と(あきら)
意外(いがい)とロマンチックだね!」
(あきら)(たいら)がまた(わら)い、(おこ)った(あきら)(つか)みかかる。
人間(にんげん)って、こういう状況(じょうきょう)(とき)上向(うわむ)くんですね・・。」と(あきら)(たいら)
(たし)かによっぽどのことがないと(ひと)って、上向(うわむ)かないんだよな。」と(だい)()
「あの!(いま)よっぽどの状況(じょうきょう)なんですけど・・
 ()いてます!?
 ()()いて(くだ)さいよ。(かお)だけはやめて(くだ)さいよ!」と(あきら)(たいら)

(かえ)(みち)
「これだけ学生(がくせい)がいるのに(だれ)上向(うわむ)いていませんね。」と(あきら)(たいら)
「そうなんだよ。(ひと)って意外(いがい)上向(うわむ)かないんだよ。」と(だい)()
(おれ)、ここにいる半分(はんぶん)ぐらいの(ひと)だったら上向(うわむ)かせる自信(じしん)あるな。」と亮介(りょうすけ)
「マジ!?」
出来(でき)たらジュース(おご)れよ。」
「いいよ。」
(あぶ)ない!!」
亮介(りょうすけ)(さけ)ぶと、(まわ)りの(ひと)たちは(うえ)見上(みあ)げて身体(しんたい)をかがめる。
「すげー!」と(だい)()
(なに)いきなり!」と佳奈子(かなこ)
「グランドの(よこ)とか(ある)いてるとさ、ボールとかよく()んでくるだろ?
 だから、みんな(あぶ)ないって()くと、反射(はんしゃ)(てき)(うえ)()るの。」と亮介(りょうすけ)
「・・・(いま)から現場(げんば)()にいかない?」と(だい)()
「お!いいね!みんなで()こうぜ。」と亮介(りょうすけ)
「でも、現場(げんば)まで結構(けっこう)(とお)いですよ。
 電車(でんしゃ)()()いで1時間(じかん)ぐらい()かりますが。」と(あきら)(たいら)
「みんなで()けば、(とお)くない。」と(あきら)
「いやいや、(とお)いですから。」
(あきら)(たいら)(にら)みつける(あきら)
「・・すみません。」
「よし!じゃあ()まりだな。」と亮介(りょうすけ)
「ちょっと()ってよ。
 現場(げんば)調(しら)べるのは警察(けいさつ)がやること。 
 わざわざ()かなくても資料(しりょう)()想像(そうぞう)すればいいでしょ。 
 そのために解剖(かいぼう)して、あんな膨大(ぼうだい)なデータ()ったんじゃない。」と佳奈子(かなこ)
「・・・A4の(かみ)(まい)
 内臓(ないぞう)()(きざ)まれて機械(きかい)()けられて、数字(すうじ)になって。
 でもあの(ひと)昨日(きのう)まで普通(ふつう)()きていた。
 どんな場所(ばしょ)で、どんな(みち)(ある)いて、
 どんなことで()ななきゃいけなかったのか、
 (おれ)はすごい()になるんだよね。」と(だい)()
興味(きょうみ)本位(ほんい)(くび)()()まない(ほう)がいいと(おも)う。
 そんなことしたって、()(かえ)らせるわけじゃないんだし。」
佳奈子(かなこ)はそう()い、みんなの(まえ)から()()った。


(だい)()亮介(りょうすけ)(あきら)(たいら)(あきら)市原(いちはら)死亡(しぼう)現場(げんば)である建設(けんせつ)(ちゅう)
ビルの(まえ)にやってくる。
(おも)ってたより(ひく)いな。」と(だい)()
(ぼく)も、10メートルってもっと(たか)いかと(おも)ってました。」と(あきら)(たいら)
花束(はなたば)(そな)えられた場所(ばしょ)()かって()()わせる(だい)()たち。
「まあ、でも、これだけ(しず)かな場所(ばしょ)だったら(うえ)でちょっとした物音(ものおと)
 しただけで、(うえ)()るよな。」と亮介(りょうすけ)
「だったら尚更(なおさら)落下(らっか)(ぶつ)()づいたら()けられると(おも)わない?」と(だい)()
(ちか)くに()るまで()づかなかったとか?」と亮介(りょうすけ)
「それに、(なが)いものとかだったら、どんなに(はや)()づいても
 ()たっちゃうと(おも)うんですよね。」と(あきら)(たいら)
(なが)いものか・・。
 だったら、被害(ひがい)(しゃ)()たった(のち)に、地面(じめん)接触(せっしょく)しているはずだよね。」
(だい)()言葉(ことば)に、(あきら)(たいら)地面(じめん)(はら)ばいになり調(しら)べてみる。
報告(ほうこく)(しょ)にもありませんでしたし、
 そういう(あと)見当(みあ)たりませんね。」
「ね、被害(ひがい)(しゃ)って発見(はっけん)された(とき)どこにいたんだっけ?」と(だい)()
「ビルの(わき)にある花壇(かだん)()かって()()格好(かっこう)です。
 ひざを地面(じめん)()け、()()ばしたまま()(うしな)っていた。」
亮介(りょうすけ)はメモを()()げる(あきら)(たいら)に、その格好(かっこう)真似(まね)てみるよう
()合図(あいず)する。
「え!?(ぼく)がやるんですか?」
「そういうの上手(じょうず)そうじゃん。」
(あきら)(にら)まれ仕方(しかた)なく(したが)(あきら)(たいら)
(だい)(いち)発見(はっけん)(しゃ)証言(しょうげん)
 (とお)くから()たら、まるでお(いの)りをしているようだった。」と亮介(りょうすけ)
(たし)かに、(へん)格好(かっこう)だ。」と(だい)()
(ちか)づいて()()けてみたら、意識(いしき)はあったが言葉(ことば)(はつ)せず、
 表情(ひょうじょう)は、微笑(ほほえ)んでいるように()えたので、(おどろ)いた。」
亮介(りょうすけ)合図(あいず)され微笑(ほほえ)みを()かべてみる(あきら)(たいら)
(だい)()は、その(はなし)()きながら、周囲(しゅうい)()かれた花束(はなたば)()つめていた。

後日(ごじつ)研究(けんきゅう)(しつ)
「あなた(たち)法医学(ほういがく)って(なん)だか()(ちが)えてない?」
玲子(れいこ)が4(にん)をしかりつける。
「・・・」
現場(げんば)推理(すいり)ごっこしている(ひま)があったら、
 解剖(かいぼう)手順(てじゅん)身体(しんたい)(おぼ)えなさい!
 分析(ぶんせき)したデータを(あな)(ひら)くほど見比(みくら)べなさい!
 論文(ろんぶん)徹底的(てっていてき)()(かえ)しなさい!
 わかった!?」
「はい・・。」
玲子(れいこ)研究(けんきゅう)(しつ)()ていく。

(なに)収穫(しゅうかく)ありませんでしたね。」と(あきら)(たいら)
「そうだね。」と亮介(りょうすけ)
「ま、結局(けっきょく)データが(すべ)てなんですけどね。」と(あきら)(たいら)
「じゃあ、お(さき)に。」と(あきら)
「お(つか)(さま)です。」と(あきら)(たいら)
「あ、ちょっと!(あきら)(たいら)!」(だい)()()()める。
「はい。」
「ちょっと、それ()りていい?」
「かまわないですけど。
 お(つか)(さま)です!」
(あきら)(たいら)()っていた資料(しりょう)(わた)し、(かえ)っていく。
「お(つか)れ!」
「よし、(おれ)()くわ。」と亮介(りょうすけ)
「あ、亮介(りょうすけ)今日(きょう)時間(じかん)ある?」と(だい)()
「いや、(いま)からバイト。どうして?」
「うん?
 ちょっと・・()になる場所(ばしょ)があってさ。」
「お(まえ)()りないねー。」
亮介(りょうすけ)(かえ)っていく。
佳奈子(かなこ)()つめる(だい)()
その視線(しせん)()づき(いや)そうに(かお)()げる佳奈子(かなこ)
()かない?とジェスチャーする(だい)()
「バカみたい!」
「・・・」

(だい)()一人(ひとり)でもう一度(いちど)現場(げんば)(おとず)れると、(つぎ)場所(ばしょ)へと()かう。

研究(けんきゅう)(しつ)
資料(しりょう)()佳奈子(かなこ)
金属(きんぞく)加工(かこう)工場(こうじょう)でのガスボンベ爆発(ばくはつ)事故(じこ)
回想(かいそう)
母親(ははおや)葬儀(そうぎ)(せき)(ちい)さい(おとうと)()(にぎ)()める小学生(しょうがくせい)佳奈子(かなこ)
そんな(なか)大人(おとな)たちの(こえ)()こえてくる。
可哀想(かわいそう)に・・。心臓(しんぞう)発作(ほっさ)だって。」
過労(かろう)だろ?一人(ひとり)(はたら)きすぎて・・。」
「あんな(ちい)さい子供(こども)たち(のこ)して・・。」
(かあ)さんの(あし)に、アザがあるのおかしいもん!」と佳奈子(かなこ)
佳奈子(かなこ)ちゃん、心臓(しんぞう)発作(ほっさ)だから、アザは関係(かんけい)ないんだよ。」
(しん)じたくない気持(きも)ちはわかるけど、
 これからはあなたがしっかりしなくちゃダメなのよ。」
回想(かいそう)()わり)

(だい)()市原(いちはら)(つと)めていたヤマト電機(でんき)(たず)ねていく。
「いや、しかし可哀想(かわいそう)だよな。
 身寄(みよ)りもいないし、葬式(そうしき)もやらねーって()うんだからさ。」
市原(いちはら)さんってどんな(ひと)だったんですか?」
地味(じみ)(ひと)だったよ。
 たまに仕事(しごと)(がえ)りに()みに()程度(ていど)(なか)だったんだけどさ。
 (むかし)(おく)さんがいたなんて。警察(けいさつ)()いて(はじ)めて()ったんだよ。
 過去(かこ)(はなし)は、あまりしたがらなかったからな。」
「・・(へん)なこと()きますけど。
 もしかして・・市原(いちはら)さんって反射(はんしゃ)神経(しんけい)(わる)かったですか?」
反射(はんしゃ)神経(しんけい)
 そんなことわかんないよ。」
「ですよね。」
(べつ)に、運動(うんどう)音痴(おんち)には()えなかったしな。
 あ!そういえば、一緒(いっしょ)()みに()った(とき)に、
 居酒屋(いざかや)野球(やきゅう)中継(ちゅうけい)(はじ)まったら、テレビ()してくれって
 (たの)んでたよ。
 それで()(きゃく)一回(いっかい)もめた(こと)がある。」
野球(やきゅう)ですか・・。」
「もしかしたらあんまり、スポーツとか()きじゃなかったのかも
 しれないな。」
「・・・」

石末(いしずえ)総合(そうごう)病院(びょういん)
カルテを(はこ)んで(まわ)亮介(りょうすけ)
亮介(りょうすけ)とすれ(ちが)うスタッフは(みな)丁寧(ていねい)にお辞儀(じぎ)をしていく。
亮介(りょうすけ)!」(ちち)石末(いしずえ)院長(いんちょう)名高(なだか)達男(たつお))が()()める。
「こいつね、島田(しまだ)先生(せんせい)のところで、世話(せわ)してもらうことになってね。」
()医者(いしゃ)たちに(うれ)しそうに(はな)石末(いしずえ)
島田(しまだ)ゼミって()ったら、名門(めいもん)じゃないですか!」
「じゃあ病院(びょういん)(ちょう)()()(ちか)いですね。」
「さっさと一人前(いちにんまえ)になって、(らく)をさせてもらいたいもんだな。」
父親(ちちおや)たちに会釈(えしゃく)をして見送(みおく)亮介(りょうすけ)

(らく)させてもらいたいもんだな。」看護(かんご)()(こえ)()ける。
奈津美(なつみ)か。」
「その荷物(にもつ)、お()ちいたします。」
(なに)だよ(きゅう)に。」
(つぎ)病院(びょういん)(ちょう)先生(せんせい)になる(ひと)ですから、(いま)のうち(やさ)しくしておいたほうが、
 (とく)だなーと(おも)って。」
「こんなでかい病院(びょういん)(おれ)なんかの()()えないっつーの。」
「・・頑張(がんば)ってね!応援(おうえん)してるからさ。」
奈津美(なつみ)言葉(ことば)微笑(ほほえ)()()亮介(りょうすけ)

(よる)現場(げんば)(すわ)()み、ビルを見上(みあ)げ、コンビニのおでんを()べながら、
(だい)()佐川(さがわ)教授(きょうじゅ)言葉(ことば)(おも)()こす。
"e;法医学(ほういがく)(しゃ)にしか()こえない(こえ)がある。 
 その(こえ)をつなげるのが、(おれ)(たち)仕事(しごと)だ。"e;

大学(だいがく)食堂(しょくどう)でテレビを真剣(しんけん)()つめる亮介(りょうすけ)
どうやらサスペンスドラマを()ているらしい。
テレビを()してしまう(だい)()
「おい!(なに)してんだよ(はや)()けろよ! 
 やっと()てきたんだよ、遺言(ゆいごん)(じょう)!!」
(へん)だよね。」
「はい?」
野球(やきゅう)(きら)いだからってわざわざテレビ()せって()うと(おも)う?」
(なに)(はなし)だ?いいから(はや)遺言(ゆいごん)!!」リモコンを(うば)(かえ)そうとする亮介(りょうすけ)
市原(いちはら)さん、居酒屋(いざかや)野球(やきゅう)中継(ちゅうけい)のテレビ()して()(きゃく)()めたらしいんだよ。」
「まだそんなことやってんのかよ。」
やっとリモコンを()(かえ)した亮介(りょうすけ)だが、ドラマは()わってしまっていた。
()わってるし・・」
「どうしてそんなに野球(やきゅう)(ぎら)いなんだろ。」
「また!どうしてどうしてって・・。」
「いただきまーす!」

「あの、すみません。これ。」(あきら)(たいら)(なに)()ってきた。
(なに)これ?」
「ゼミの親睦(しんぼく)(かい)案内(あんない)です。」
「これが?なんだこのデザイン!
 (あきら)(たいら)幹事(かんじ)やるの?」
「いえ、(はね)()さんが。」
(なに)で!?」
「なんか、全員(ぜんいん)一回(いっかい)()まなきゃ()()かないって。」
(はね)()(くん)ってなんか(へん)だよね。」
「あれは?アキちゃん(さそ)ったの?」と亮介(りょうすけ)
(だれ)ですか?それ。」
「いるじゃんかよ。うちのゼミの唯一(ゆいいつ)のヒロイン。」
「アキなんて名前(なまえ)だったっけ?」と(だい)()
苗字(みょうじ)は、久保(くぼ)(あき)だろ?
 めんどくさいから、アキちゃんでいいかなーって。」と亮介(りょうすけ)
「さっきチラシは(わた)しましたけど。」
「ま、()ないだろ、あいつは。」と(だい)()

沖縄(おきなわ)料理(りょうり)(てん)「ちゅらちゃん」
「・・本当(ほんとう)に、ここ実家(じっか)なの?」亮介(りょうすけ)(あきら)()く。
「なんか文句(もんく)あんのかよ!」
「いや、(べつ)に・・。素敵(すてき)なお(みせ)だなーって。」
医者(いしゃ)息子(むすこ)はなかなかこういう庶民(しょみん)(てき)(みせ)()ないもんねー!」と(だい)()
「・・・そんなことないよぉ!」と亮介(りょうすけ)
(だい)()さんちは、医者(いしゃ)じゃないんですか?」と(あきら)(たいら)
「うん、うち、普通(ふつう)のサラリーマン。」
(あきら)(たいら)んとこは?」と亮介(りょうすけ)
「うち、仙台(せんだい)歯医者(はいしゃ)やってます。」
歯医者(はいしゃ)なのになんで医学部(いがくぶ)()たんだよ。しかも法医学(ほういがく)って。」
(ぼく)も、普通(ふつう)歯医者(はいしゃ)()ごうかと(おも)っていたんですけど、
 たまたま海外(かいがい)監察(かんさつ)()のドラマ()てハマっちゃったんですよね。」
「そんな単純(たんじゅん)動機(どうき)ですか・・。」と亮介(りょうすけ)
「スラムダンクに感動(かんどう)して(こう)2からバスケ(はじ)めたの(だれ)だ!?」と(だい)()
海外(かいがい)ドラマとスラムダンク一緒(いっしょ)にされたら(こま)ります!
 (ぎゃく)にどうすればスラムダンク()んでバスケ(はじ)めずにいられるのか
 ()いてみたいね!」と亮介(りょうすけ)
「あの漫画(まんが)はこの(くに)(たから)だ!」と(あきら)
(はね)()(くん)()きなの?」と亮介(りょうすけ)
()きたい(よる)は・・(さけ)漫画(まんが)だ!」

(はね)()(おおとり)()濱田(はまだ)マリ)がテーブルにやってくる。
「ごめんね、お(まち)たせして。
 お料理(りょうり)(なに)にします?」
「ゴーヤチャンプル2つと、」
「うちゴーヤ()いてないんだ。」
「え?」
(わたし)がほら、ゴーヤ苦手(にがて)じゃない?」
「ここ沖縄(おきなわ)料理(りょうり)()ですよね?」と(だい)()
(あきら)大学(だいがく)友達(ともだち)()れてくるなんてびっくりよ。
 みんな男前(おとこまえ)だしな。」
「あれ?無視(むし)された。」と(だい)()
「いいからあっち()けよ。」と(あきら)
「あんたが(ぞく)(はい)ってた(ころ)は、(かみ)()(くろ)友達(ともだち)なんて
 一人(ひとり)もいなかったもんねー。」
「・・・・・え、ゾクっていうのは?」と亮介(りょうすけ)
「あらやだ!()いてなかったの?」
「まあ、なんとなくそうかなーとは(おも)ってたんですけどね。」と亮介(りょうすけ)
本当(ほんとう)にそういうようなこととは、ねえ。」と(だい)()
()(だま)事件(じけん)!」
(あきら)(たいら)(わら)いながらそう()うと、(あきら)(あきら)(たいら)首根(くびね)っこ(つか)んで(ひょう)()()し!?
(うそ)です!(たす)けて~!」

大学(だいがく)
佐川(さがわ)研究(けんきゅう)(しつ)一人(ひとり)(のこ)って勉強(べんきょう)(つづ)ける佳奈子(かなこ)()づく。
親睦(しんぼく)(かい)()かなかったの?」
「はい。あまりお(さけ)(せき)とか()きじゃなくて。」
「そう。それは残念(ざんねん)
 (おれ)玲子(れいこ)(くん)(さそ)って()こうかなと(おも)ってたんだけど、
 会議(かいぎ)(はい)っちゃってさ。
 (だれ)()いたんだこれ。上手(うま)いな!」親睦(しんぼく)(かい)のチラシを()()佐川(さがわ)
先生(せんせい)。」
「うん?」
「どうすれば、優秀(ゆうしゅう)法医学(ほういがく)(しゃ)になれるとお(かんが)えですか?」
「いきなり(むずか)しい質問(しつもん)だね。」
「すみません。」
「うん・・普通(ふつう)であり(つづ)けることかな。」
普通(ふつう)ですか?」
「うん。
 遺体(いたい)(あつか)うという特殊(とくしゅ)環境(かんきょう)にいるかもしれないけども、
 いかに、普通(ふつう)感覚(かんかく)()てるかってことが、大事(だいじ)かな。
 事件(じけん)(いきどお)りを(かん)じたり、遺族(いぞく)気持(きも)ちになって(かな)しんだり、
 ここにずっと(なが)くいるとさ、そういう()たり(まえ)感覚(かんかく)を、
 ふと(わす)れそうになる瞬間(しゅんかん)があるんだよ。
 だから、みんなと一緒(いっしょ)にのみに()くってことも大事(だいじ)なことだと(おも)うよ。
 (ひと)はどんな(とき)(わら)ってどんな(とき)(たの)しいって(おも)うのか
 (わす)れちゃ(こま)るもんな。」
そう()()()佐川(さがわ)
佳奈子(かなこ)親睦(しんぼく)(かい)のチラシを()つめ・・。

ちゅらさん
「え?まだ調(しら)べているんですか?」と(あきら)(たいら)
昨日(きのう)(はたら)いていた職場(しょくば)までわざわざ()ったんだって!
 (ひま)なヤツだろ?」と亮介(りょうすけ)
「なんか、わかったのか?」と(あきら)
「うん。離婚(りこん)(れき)があるってことと、野球(やきゅう)(きら)いだったってことくらいかな。」
「そんなこと()くために電車(でんしゃ)で1時間(じかん)だぜ。(しん)じらんない。」と亮介(りょうすけ)

そこへ、佳奈子(かなこ)がやってくる。
「あ!アキちゃん()た!こっちこっち!」と亮介(りょうすけ)
(わたし)さ、いつからアキちゃんになったの?」
今日(きょう)から。」
「アキちゃん、(なに)()ますか?」と(あきら)(たいら)
「じゃ、(なま)。」
(なま)(ひと)つお(ねが)いします!」
絶対(ぜったい)()ないと(おも)ってたけどな。」と(だい)()
女子(じょし)当然(とうぜん)タダなんでしょ?」
「はい残念(ざんねん)!」(さん)(にん)(こえ)(そろ)えて()う。
「チラシをよくご(らん)(くだ)さい。
 ここにですね、女性(じょせい)参加(さんか)()1万(いちまん)(えん)って()いてあるんですね。」
(なに)これ・・詐欺(さぎ)じゃないのよ、ちょっと!」
(つく)った(はね)()(くん)()えよ。」と(だい)()
「みんなで現場(げんば)()()(とき)()(みだ)したバツ。」と(あきら)
「はぁ!?」
冗談(じょうだん)だよ冗談(じょうだん)
 今日(きょう)はさ、(だい)()(おご)ってくれるから心配(しんぱい)するなって。」と亮介(りょうすけ)
「ご馳走様(ちそうさま)です!」
「ふざけんなよ!」と(だい)()
「アキさん()ってました?
 (はね)()(くん)って、(むかし)ヤンキーだったんですよ。」と(あきら)(たいら)
「へー。そうなんだー。」
「あれ?アキさん全然(ぜんぜん)(おどろ)かないんですね。」
「そうなのかなーって(おも)ってたからさ。」
「そっかー!そう(おも)ってたんですね!」
(なに)こっそりアキさんアキさん連呼(れんこ)してんだよ。」と亮介(りょうすけ)
「そんなつもりじゃ・・」

「はいお()ち。」(あきら)がビールを()ってくる。
「ねえ、どうしてうちの大学(だいがく)(はい)ったの?
 元々(もともと)法医学(ほういがく)やるつもりで?」佳奈子(かなこ)(あきら)()く。
「ああ。(おれ)法医学(ほういがく)のお(かげ)刑務所(けいむしょ)(はい)らずに()んだからさ。」
「・・・・・」
「・・どうしてですかって()けよ!!」
「いや、あんま、()()んで()いちゃいけないのかなと(おも)って。」と亮介(りょうすけ)
会話(かいわ)で、刑務所(けいむしょ)()きの(はなし)とか()てきたことないんで、
 (からだ)がびっくりしちゃって。」と(あきら)(たいら)
「・・・(から)んできた相手(あいて)が、()んじゃってさ。
 警察(けいさつ)は、一発(いっぱつ)(なぐ)っていないのに、(おれ)犯人(はんにん)だと()()けた。」
「・・・」
司法(しほう)解剖(かいぼう)結果(けっか)死因(しいん)脳出血(のうしゅっけつ)だったが、
 持病(じびょう)によるものとわかった。
 法医学(ほういがく)がなかったら、(おれ)人生(じんせい)(まった)別物(べつもの)となっていたんだよ。」
「あの()からきっぱり(ぞく)やめて、()()勉強(べんきょう)したのよ。
 学費(がくひ)自分(じぶん)(はら)うって、勉強(べんきょう)しながら引越(ひっこ)()のバイトで、
 お(かね)()めてね。」と(はは)
「だから(ぶつ)(おも)さに(くわ)しかったと・・。」と亮介(りょうすけ)
「この()苦労(くろう)して頑張(がんば)ったんだよー。」
(べつ)頑張(がんば)ってねーし。」と(あきら)
「すっげー頑張(がんば)ってたっすよ。」と(はは)
二人(ふたり)(はなし)(おだ)やかに微笑(ほほえ)む4(にん)
「よし!じゃ乾杯(かんぱい)しよっか!な!アキも()たことだし。」
(なに)サラっと()()てにしてんだよ。」と亮介(りょうすけ)
(いま)さりげなかったですねー!」と(あきら)(たいら)
(べつ)にいいじゃん。あだ()なんだし、ね!」
(おご)ってくれるんだったら()()てでもいいよ。」と佳奈子(かなこ)
「いや、(おご)らないよ。」
「ケチ!」
「ケチって、()えばいいと(おも)ってるんですか?」
「はいはいはい、じゃ、これからも、仲良(なかよ)くやっていきましょうと
 いうことで、乾杯(かんぱい)!」と亮介(りょうすけ)
乾杯(かんぱい)!」
「あー、美味(おい)しい!」
美味(おい)しいね、アキ!
 アキ、エビ、()べる?」(だい)()がエビの(つく)(もの)()せる。。
()べない。」
「タイ、()べる?」
「どっから()ってきたんだよ・・」と亮介(りょうすけ)
「やだこの()(ぱら)い!」

大学(だいがく)図書館(としょかん)調(しら)(ぶつ)をする(だい)()たち。
「ねえ、これ()て!今回(こんかい)事件(じけん)()てない?」と佳奈子(かなこ)
(がく)からあごに()けての粉砕骨折(ふんさいこっせつ)
 被害(ひがい)(しゃ)頭上(ずじょう)から、20キロ相当(そうとう)鉄骨(てっこつ)()とし、
 犯行(はんこう)()()()る。
 かなり()てるな。」と亮介(りょうすけ)
「やっぱり、建設(けんせつ)現場(げんば)資材(しざい)凶器(きょうき)使(つか)われたんですかね?」と(あきら)(たいら)
「でも鑑識(かんしき)調(しら)べでは、資材(しざい)から事件(じけん)(せい)のある反応(はんのう)()なかったって。」と佳奈子(かなこ)
「ねえ、おでこの陥没(かんぼつ)以外(いがい)骨折(こっせつ)のある箇所(かしょ)ってどこだったっけ?」と(だい)()
鼻骨(びこつ)鎖骨(さこつ)頚椎(けいつい)、あと左右(さゆう)前腕(ぜんわん)(しゃく)(こつ)。」と佳奈子(かなこ)
左右(さゆう)前腕(ぜんわん)(しゃく)(こつ)?」と(だい)()
「そう。
 花壇(かだん)()()けたと(おも)われる打撲(だぼく)(あと)(のこ)ってる。」
(へん)だな・・」と(だい)()
(なに)が?」と佳奈子(かなこ)
「どうして外側(そとがわ)なんだろ。
 落下(らっか)(ぶつ)から()げようとする(ひと)が、(うで)外側(そとがわ)()()けるかな。」
「どういうこと?」と亮介(りょうすけ)
(うえ)から(もの)()ちてきたらどうやって()げる?」
「まあ、こう?」
()のひらを(うえ)()けて()げる(ひと)なんていると(おも)う?」
「うん・・(たし)かにおかしいかも。
 もし普通(ふつう)(ある)いていたとしても、外側(そとがわ)ぶつけるって(へん)だよね。」と佳奈子(かなこ)
発見(はっけん)された(とき)被害(ひがい)(しゃ)ってどんな格好(かっこう)だったっけ?」と(だい)()
「よし、(あきら)(たいら)!」と亮介(りょうすけ)
「え?またですか?」
(くび)をコキコキ()らす(あきら)
「・・・はい!」
(あきら)(たいら)姿勢(しせい)をまねる。
(はね)()(くん)(なに)()える?」(だい)()()く。
雨乞(あまご)い。」
雨乞(あまご)いって!・・すみません。
 雨乞(あまご)い・・(あめ)(あめ)()れー!」と(あきら)(たいら)
「これじゃゴール()めたときのサッカー選手(せんしゅ)じゃないかな。」
「ゴーーール!()めたのは、戸田(とだ)!」

こめかみを人差(ひとさ)(ゆび)(かる)(たた)きながら(かんが)()(だい)()
(だい)()脳裏(のうり)には、さまざまな情報(じょうほう)がフラッシュのようによぎっていく。
そして、それがひとつになったとき、あることがひらめく。
()()めたかったんだ!」
確信(かくしん)()ちた表情(ひょうじょう)()うと、どこかへ(はし)()る。
亮介(りょうすけ)らは、わけもわからないままその()()う。

(だい)()らがやってきたのは、市原(いちはら)(わか)れた(つま)(かわ)(なべ)秀子(ひでこ)美保(みほ)(じゅん))の
アパートだった。
「あの・・市原(いちはら)良平(りょうへい)さんの(けん)(うかが)ったんですが・・」と(だい)()
(ちゅう)(はい)ってもらえますか?」と秀子(ひでこ)

「あの(ひと)とは、もう20(ねん)()ってませんでした。
 まさか、こんなことになるとはね。」
市原(いちはら)さん、野球(やきゅう)()きだったんですね。」
「・・ええ。」
最初(さいしょ)はずっと、野球(やきゅう)(きら)いな(ひと)だと(おも)っていたんです。
 ここに(きた)(まえ)()いてきたんですが、学生(がくせい)時代(じだい)、ずっと野球(やきゅう)()
 だったんですね。」
「あの(ひと)息子(むすこ)誕生(たんじょう)()に、野球(やきゅう)のグローブを()ってあげたんです。
 息子(むすこ)にもやらせたかったみたいで。 
 あの()が、小学校(しょうがっこう)1(ねん)(とき)でした。
 ・・・(わたし)たちが、留守(るす)にしている(あいだ)に、ベランダから転落(てんらく)したんです。
 現場(げんば)には、ボールが(ころ)がっていて、()にはグローブをはめていました。
 警察(けいさつ)(ほう)(はなし)では、()すりから()()()してボールを()ろうとして、
 そのまま転落(てんらく)したんだろうって。」
「・・・」
「あの(ひと)・・ずっと自分(じぶん)()めてました。
 グローブなんて()ってやったからだ。
 野球(やきゅう)なんてやってたからだって。
 (わたし)たち・・あの()()()()えられなくて・・
 あの事件(じけん)から、1(ねん)もしない(あいだ)に、(わか)れてしまったんです。
 あの(ひと)・・最後(さいご)まで可哀想(かわいそう)(ひと)だった・・。」
「それは(ちが)うと(おも)います。
 市原(いちはら)さんは・・一(・・いち)(にん)(いのち)(すく)ったんです。」と(だい)()
「・・・」
「あの()見上(みあ)げたビルの屋上(おくじょう)には、(おそ)らく子供(こども)()っていました。
 (おも)さ30キロといえば、小学校(しょうがっこう)4年生(ねんせい)ぐらいでしょうか。
 その()が・・・自殺(じさつ)しようと(おも)って、()()りたんだと(おも)います。」
「え・・自殺(じさつ)?」
息子(むすこ)さんと(おな)(くらい)()が、()()りようとするのを目撃(もくげき)した瞬間(しゅんかん)
 市原(いちはら)さんは、()()ばして(すく)いに()かずにはいられなかったんじゃ
 ないでしょうか。」

想像(そうぞう)
ビルの屋上(おくじょう)から子供(こども)()()りた瞬間(しゅんかん)市原(いちはら)()っていた工具(こうぐ)
(ほう)()し、子供(こども)(すく)おうと両手(りょうて)()()(はし)()す。

「・・・その()、どうなったんです?」
「きっと(たす)かった。(ぼく)はそう(おも)います。
 落下(らっか)(ぶつ)現場(げんば)になく、いまだに発見(はっけん)されていません。
 地面(じめん)に、(なに)かが()ちたような形跡(けいせき)()つかりませんでした。
 その()は、(ある)いて(かえ)ることが出来(でき)たんだと(おも)います。
 市原(いちはら)さんは、(とお)ざかる意識(いしき)(なか)で、その()()かって()ったんじゃ
 ないでしょうか。
 いいから、()きなさいって。」

想像(そうぞう)
「おじさん・・」
()にしなくって、いいんだよ・・。
 ()きなさい。」子供(こども)微笑(ほほえ)みながらそう(かた)市原(いちはら)
()きなさい。
 ()きていくんだ。
 もう・・()ぬなんて(おも)っちゃダメだよ・・。
 ほら、()きなさい。」
「おじさん・・」
()きなさい。」
子供(こども)市原(いちはら)()()けて(ある)()し・・。

市原(いちはら)さんにしか・・(すく)えなかった(いのち)だと(おも)います。
 いや・・(すく)ったのは(いのち)だけじゃないのかもしれない。
 すごいなーって、(おも)いました。」
「・・ありがとう。」(だい)()(はなし)()()秀子(ひでこ)
(だい)()(こぶし)(にぎ)()め・・。

大学(だいがく)
玲子(れいこ)佐川(さがわ)にDNA鑑定(かんてい)結果(けっか)をを(とど)ける。
被害(ひがい)(しゃ)洋服(ようふく)付着(ふちゃく)していた(かみ)()は、(べつ)人間(にんげん)(かみ)()で、
 毛根(もうこん)から小学生(しょうがくせい)ぐらいの年齢(ねんれい)判明(はんめい)しました。
 教授(きょうじゅ)(おっしゃ)っていたとおり、市原(いちはら)さんの()付着(ふちゃく)していた血液(けつえき)
 (どう)一人物(いちじんぶつ)でした。
 警察(けいさつ)には報告(ほうこく)()みです。」
「わかりました。ご苦労(くろう)(さま)です!
 あ、コーヒーでも()んでく?」
「はい。
 教授(きょうじゅ)、ゼミ(せい)のことなんですが。」
「うん。」
今日(きょう)無断(むだん)外出(がいしゅつ)しておりまして、レポートの提出(ていしゅつ)期限(きげん)(だれ)
 (まも)っていません。」
「そりゃ(こま)ったもんだ。」
教授(きょうじゅ)からも(きび)しく()っていただけませんか?
 (かれ)らの行動(こうどう)は、法医学(ほういがく)から(はず)れすぎです。」
「そうかもしれないね。」
「それに加地(かじ)(だい)()志望(しぼう)(しゃ)じゃないのに(ひろ)ってくるなんて、
 どういうおつもりですか?
 わざわざうちに()れるほどの人材(じんざい)とはとても(おも)えないんですけど。」
「あいつにはじめてあった(とき)から、ずっと法医学(ほういがく)()いていると
 (おも)ってたんだ。
 まさかこんな(ところ)()うとはね。」
(おっしゃ)っている意味(いみ)がわかりませんが。」
「はいどうぞ。」
「すみません。いただきます。」
玲子(れいこ)(きみ)さ、法医学(ほういがく)(こころざ)人間(にんげん)にとって必要(ひつよう)資質(ししつ)って(なに)だと(おも)う?」
医学(いがく)(てき)なあらゆる知識(ちしき)と、客観(きゃっかん)(てき)判断(はんだん)。」
「うん。それだけじゃないんだ。
 イマジネーション。
 常識(じょうしき)(とら)われない自由(じゆう)発想(はっそう)がこれからの法医学(ほういがく)にもっと
 (もと)められるような()がするんだ。」
「だとしても、教授(きょうじゅ)意見(いけん)納得(なっとく)できません。
 あんな無謀(むぼう)()けするなんてどうかしてるんじゃないんですか?」
「え?」
「ゼミに5(にん)全員(ぜんいん)(のこ)るだなんて、あり()ません。
 もっとこう、イマジネーション?(はたら)かせて(くだ)さいね!
 ご馳走様(ちそうさま)でした。失礼(しつれい)します。」

スクラップブックを(ひろ)げる佐川(さがわ)
そこには、新聞(しんぶん)記事(きじ)()(づけ)けらていた。
地下鉄(ちかてつ)事故(じこ)18(にん)死亡(しぼう)
 放火(ほうか)事故(じこ)両面(りょうめん)
 突然(とつぜん)惨劇(さんげき)
 ベッドタウンが騒然(そうぜん)
その(とき)のことを(おも)()こす佐川(さがわ)

15(ねん)(まえ)
被害(ひがい)(しゃ)懸命(けんめい)救助(きゅうじょ)する佐川(さがわ)
「しっかりして(くだ)さい!お(かあ)さん!頑張(がんば)って(くだ)さいね!」
心臓(しんぞう)マッサージを(ほどこ)すが、女性(じょせい)(いき)()え、
彼女(かのじょ)()から(すず)(おと)()らしながら(ころ)()ちる。
()んでる(もの)後回(あとまわ)しだ!お(まえ)治療(ちりょう)テントの(ほう)(まわ)れ!」
「はい。」
女性(じょせい)(もと)(はな)れようとした(とき)(すず)(おと)がまた()る。
少年(しょうねん)(ひろ)ったのだ。
「このお(かあ)さん・・(こえ)()なくなっちゃったんだね。
 もうちょっとだよ、頑張(がんば)れって、()ってあげられなくなったから、
 (すず)()らしてあげたんだね、きっと。」
少年(しょうねん)はそう佐川(さがわ)()うと、ベビーカーで(なに)()らずに(はは)()
(あか)(ぼう)(もと)()き、(すず)(あか)(ぼう)をあやす。
少年(しょうねん)()つめる佐川(さがわ)
()()かれた包帯(ほうたい)には()(にじ)んでいる。
名札(なふだ)には、『加地(かじ)(だい)()』と()いてあった。
まだ(おさな)(だい)(おのれ)(なみだ)必死(ひっし)(こた)え、(あか)(ぼう)をあやしていた。
回想(かいそう)()わり)

新聞(しんぶん)記事(きじ)()つめる佐川(さがわ)
死者(ししゃ) キシノさん、キムラさん、()身元(みもと)不明(ふめい)8(にん)
軽症(けいしょう)(しゃ)のリストに、(だい)()名前(なまえ)()っていた。

秀子(ひでこ)(いえ)()た5(にん)
(だい)()、いつ、子供(こども)だと(おも)ったの?」亮介(りょうすけ)()く。
「え?・・最初(さいしょ)現場(げんば)()った(とき)かな。」
「そんなに(はや)くからですか?」と(あきら)(たいら)
道路(どうろ)わきに、花束(はなたば)()いてあったでしょ?
 花屋(はなや)()ってる包装(ほうそう)された花束(はなたば)()じって、
 (ひと)つだけ、野原(のばる)一生懸命(いっしょうけんめい)()んできましたって(かん)じのがあったんだよ。」
「そんなのあったか?」と亮介(りょうすけ)
全然(ぜんぜん)(おぼ)えてないですね。」と(あきら)(たいら)
「あの(へん)はオフィス(がい)だし、市原(いちはら)さん独身(どくしん)だったから、
 どうして子供(こども)(つく)った花束(はなたば)()いてあるんだろうって不思議(ふしぎ)でさ。」
「ふーん。」
「その(はな)(みょう)(なつ)かしかったんだよねー。」
(なつ)かしい?」
小学校(しょうがっこう)(とき)(はじ)めて(おんな)()(もら)った花束(はなたば)が、あんな(かん)じだったんだ。
 こう、(くき)のところピンクのゴムで()めてあってさ。」
「それって(むかし)はモテたって自慢(じまん)?」と佳奈子(かなこ)
「そんなんじゃないから。」
(おれ)は、ハルジオンだったな。」と(あきら)
「ハルジオン?」と(だい)()
「うん。
 (はじ)めて(おんな)()から(もら)った(はな)
 よく野原(のはら)()いてる、ひょろっとした(しろ)黄色(きいろ)(はな)あるだろ?」
「あ!()ってます。それ、(ぼく)地元(じもと)では貧乏(びんぼう)(はな)って()ばれてました。」と(あきら)(たいら)
「あ!(なつ)かしい!(わたし)地元(じもと)でも貧乏(びんぼう)(はな)って()んでた。」
「・・・」
カバンを()()(あきら)(たいら)突進(とっしん)する(あきら)(さけ)びながら()()(あきら)(たいら)
「ごめんなさい!すみません!冗談(じょうだん)です、冗談(じょうだん)!!」

事故(じこ)現場(げんば)
「やっぱ(おれ)には出来(でき)ねーな・・。」と亮介(りょうすけ)
「うん?」と(だい)()
市原(いちはら)さんと(おな)(こと)。」
「うん。」
そんなとき、花束(はなたば)のところにしゃがんでいた佳奈子(かなこ)が、
(まい)のカードを()つける。
「ねえ・・」
そこには、子供(こども)()
『ごめんなさい。
 ありがとうございます。』
()いてあった。

(ひと)はいつか(かなら)()ぬ。
 それでもその()から、かすかな(こえ)必死(ひっし)(ひろ)おうとする(もの)たちがいる。
 医大(いだい)(はい)って4(ねん)()(ふゆ)(ぼく)らは、(うしな)われた(いのち)(すく)医学(いがく)出会(であ)った。」

カードを(はな)()てかけ小石(こいし)固定(こてい)させる(だい)()
()こうか。」
(にん)(かえ)っていく。


(わか)い5(にん)は、それぞれの(おも)いを(かか)えて、または(みちび)かれて、
法医学(ほういがく)ゼミに(あつ)まりました。

(だい)()には()(はず)れた(かん)のよさと洞察(どうさつ)(りょく)自由(じゆう)発想(はっそう)(りょく)があるそうです。
佐川(さがわ)教授(きょうじゅ)強引(ごういん)法医学(ほういがく)ゼミに()れられてしまいました。
最初(さいしょ)に、()った(とき)から()おうと(おも)ってたんだけどな、
 お(まえ)法医学(ほういがく)()いている。」
教授(きょうじゅ)(だい)()(おさな)(ころ)事故(じこ)現場(げんば)()っていたんですね。
小学(しょうがく)2年生(ねんせい)(だい)()は、自分(じぶん)怪我(けが)をしているのに、
母親(ははおや)()くした(あか)(ぼう)をあやしていました。
「このお(かあ)さん・・(こえ)()なくなっちゃったんだね。
 もうちょっとだよ、頑張(がんば)れって、()ってあげられなくなったから、
 (すず)()らしてあげたんだね、きっと。」
(だい)()小学生(しょうがくせい)(ころ)から死者(ししゃ)(こえ)()こうとしていたんですね。
そんな本能(ほんのう)のような才能(さいのう)佐川(さがわ)はずっと(わす)れられずにいた。

(はじ)めて遺体(いたい)(まえ)にした(とき)(だい)()(ひとみ)(なみだ)()まっていたのが
印象(いんしょう)(のこ)りました。
(かんが)()みながらあごに()れる仕草(しぐさ)
こめかみを人差(ひとさ)(ゆび)()きながら(かんが)える仕草(しぐさ)もいい(かん)じ。
()めポーズとなっていくのでしょうか。

(かれ)洞察(どうさつ)(りょく)、イマジネーションから出来(でき)仮説(かせつ)被害(ひがい)(しゃ)家族(かぞく)(はな)すのは、
もしも間違(まちが)っていたらどうなるのだろう、とちょっと(かんが)えてしまいました。
(だい)()確信(かくしん)()っていたからこそ(はな)したのだろうけれど。
(のち)にデータ(てき)にも(だい)()()ったことが証明(しょうめい)されてほっとしました。


佳奈子(かなこ)はは母親(ははおや)()納得(なっとく)できなくて、このゼミを(えら)んだようです。
この(へん)もじっくり()てみたいです。

佳奈子(かなこ)(かみ)(にお)いは本当(ほんとう)にラブホで()いたものなのか!?
恋人(こいびと)がいる描写(びょうしゃ)はありませんでしたね。


亮介(りょうすけ)(おや)への反発(はんぱつ)から法医学(ほういがく)ゼミを(えら)んだんですね。
いつか父親(ちちおや)(みと)められるようになると(うれ)しいです。


(あきら)(たいら)は、監察(かんさつ)()(えが)いた海外(かいがい)ドラマにハマり法医学(ほういがく)(えら)んだ。
今後(こんご)(かれ)知識(ちしき)役立(やくだ)つことも、とあるのでどんな(ふう)活躍(かつやく)するのか
(たの)しみです。


(あきら)法医学(ほういがく)無実(むじつ)証明(しょうめい)してくれたことに感謝(かんしゃ)し、この(みち)(えら)んだ。
(もと)(ぞく)だけど、解剖(かいぼう)苦手(にがて)(たお)れてしまう。
ちょっと(あきら)(たいら)をいじめすぎな()もしちゃいましたが、
子犬(こいぬ)がじゃれあっているようなものなのか!?


死者(ししゃ)(からだ)は、その(ひと)最後(さいご)(つた)えたかった言葉(ことば)明確(めいかく)に、
 (かた)りかけてくれます。
 法医学(ほういがく)(しゃ)にしか()こえない(こえ)がある。
 その(こえ)をつなげるのが、(おれ)たちの仕事(しごと)だ。」
佐川(さがわ)教授(きょうじゅ)の、自分(じぶん)仕事(しごと)(ほこ)りを()言葉(ことば)(こころ)(ひび)いてきます。


玲子(れいこ)(やく)には久々(ひさびさ)登場(とうじょう)矢田(やだ)亜希子(あきこ)さん。
現場(げんば)推理(すいり)ごっこしている(ひま)があったら、
 解剖(かいぼう)手順(てじゅん)身体(しんたい)(おぼ)えなさい!
 分析(ぶんせき)したデータを(あな)(ひら)くほど見比(みくら)べなさい!
 論文(ろんぶん)徹底的(てっていてき)()(かえ)しなさい!
 わかった!?」
直感(ちょっかん)(うご)(だい)()たちを(しか)()ばす、(こわ)先輩(せんぱい)(やく)です。
彼女(かのじょ)()(いぶん)(もっと)もなので、ドラマのいいスパイスとなってくれそうです。


小学生(しょうがくせい)佳奈子(かなこ)(やく)には山田(やまだ)夏海(なつみ)ちゃん。
『あなたの(となり)(だれ)かいる』の(りん)ちゃん、(おお)きくなりました!
矢田(やだ)さんにどことなく()ている、と(おも)いました。
脚本(きゃくほん)()成田(なりた)(たけし)さんとは『あな(だれ)(つな)がり。

(だい)()子供(こども)時代(じだい)には、加藤(かとう)(きよし)史郎(しろう)(くん)
天地人(てんちじん)』では初回(しょかい)から()かせてくれました!
これからの活躍(かつやく)(たの)しみな子役(こやく)一人(ひとり)です。