어린왕자이야기
ヴォイス~命なき者の声~ 第1話 본문
『失われた命を救う医学』
『この国では死因の分からないまま
葬られる人々がまだたくさんいる』
『日本における変死体の数は、毎年およそ15万人』
『犯罪性が疑われるものは大学の法医学教室へと運ばれる』
『そこには
残された遺体から声を聞こうとする者たちがいる』
「人は死んだらおしまいだ。
僕らはそう思っていた。
医学とは、消えゆく命を救うため、
死を少しでも先延ばしにするために、存在するのだと、
そう思っていた。
医大に入って4年目の冬、
僕らは、失われた命を救う医学と出会った。」
解剖の見学で気絶してしまった羽井彰(佐藤智仁)を台車に乗せて運ぶ
加地大己(瑛太)、石末亮介(生田斗真)、久保秋佳奈子(石原さとみ)、
桐畑哲平(遠藤雄弥)。
「解剖始まって5分持たなかったなー。」と大己。
「解剖やるたんびに弱くなってねーか?
普通慣れてくもんだろ?」と亮介。
「一番気絶しそうにない顔してんのにね。」と佳奈子。
「アキ。」と大己。
「うん?」
「昨日駅前のラブホでシャワー入った?」
「は!?そんなとこ行くわけないでしょ!」
「髪の毛から昭和の香りがする。」
「昭和の香り!どんな匂いだよ。」亮介が笑う。
「ラブホ!?」と哲平。
「あ、ほんとだ。」亮介が佳奈子の髪の匂いを確認する。
「もっといいとこ行けよ。」と大己。
「・・・」
バシッ!佳奈子のパンチが大己の頬に飛ぶ。
1ヶ月前
「心臓外科学ゼミ」の合格発表を見つめる東凛大学医学部4年の大己。
「あったか?」と亮介。
「ない!」
「お前さ、学期末の成績ちょっと上がったからって
一番人気のゼミ申し込んだりするからだろ!」
「倍率高いから落ちてても仕方ないんだけどさー。
俺受かってた気がする。」
「はい?」
「だってここだけ変だろ!
50音順で並んでんのに、何で?
笠原と加藤の間に、安田!?」
確かに、笠原と加藤の間に安田という生徒の名前が貼り付けられてある。
「ホントだ!
でも、別に、お前がここに入ってたかどうかわかんねーじゃん。」
「俺の名前は?」
「加地大己。」
「笠原、加藤・・」
「かさ、かじ、かと・・あ、入る!」
「どうして名前消されてんだろ・・」
「出た!どうして。じゃ、俺見てくるから、諦めな。」
人差し指を唇に当ててじーっと合格発表を見つめる大己。
その頃、佳奈子は脳神経外科学教授室の前に立つとドアをノックし・・。
「大己!いつまで見てるんだよ、行こうぜ。」
「亮介名前あったの!?」
「ああ。法医学ゼミ。」
「え?法医学?どうして?」
「第一志望なんだよ。」
「親父の病院で消化器内科継ぐって約束でここに入ったんじゃないの?」
「・・・いいのいいの!俺は、一生他人の小腸や大腸覗く気ないし。
やっぱりホルモンは、治療するより食べるに限りますよね。」
「カルビしか頼まないくせに。」
「あー、なんだ又大己と一緒か。」
「何が?」
「お前の名前あったぞ。」
「は!?」
法医学ゼミの合格発表をチェックする大己。
「どうしてここにあるの!?」
「知らねーよ。
ゼミなしだと単位辛いぞー。
ま、運が良かったと思って入っておけよ。」
「俺ちょっと行ってくる!」
大己が走り去ったあと、亮介は合格発表を見つめながら父の言葉を
思い出していた。
「今更、自分で進路を決めたいなんて、
出来の悪いお前がどの面下げて言える。
消化器系じゃ、島田教授のところなら、まずまずの箔が付く。
電話入れておいたから、安心しろ。」
神経外科学教授室
「考え直す気はないのかね?
久保秋君みたいに優秀な子が、よりによって何で法医学なんだね?
患者を治すために医療を学ぶ。
それが、本来の医学の姿だと思わないか?」と教授。
「患者を救うだけが、医学なんですか?
死因の解明は、今でも医学のオプションに過ぎないんですか?
私はそうは思いません。
失礼します。」
大己は法医学教授室に教授の佐川文彦(時任三郎)を訪ねていく。
「あの・・」
「・・・おぉ!加地大己!」
「ええ。」
「よく来た!まーまー、入って!」
「ここで大丈夫です。すぐ帰りますから。」
「まーそんなこと言わずに、ゆっくりしていけよ。
今美味しい中国茶入れてやるから。
これが美味いんだ!」
「掲示板の名前移動させました?」
「うん?」
「俺心臓外科ゼミに受かってたんじゃないんですか?」
「・・・」
「どうしてそんなことしたんですか?」
「ふふふ。じゃあ聞くけど、心臓外科学ゼミを志した理由は?」
「・・・うーん、今注目されている分野だし、
見学した時、活気あるゼミだなーって。」
「それだけか?」
「・・・心臓が最後の砦かなと思ったんです。
心臓が止まってしまったら・・どんな医学も意味を成さないから。」
「本当にそう思うのか?」
「え?」
「亡くなった人の声に耳を傾ける。
そういう医学がってもいいと思わないか?」
「・・・」
「よし出来た!
俺も学生時代、自分が法医学を選ぶなんて思ってもみなかったよ。
それがある時突然、教授に、お前は法医学に向いている、って
言われた。」
「え?」
「ま、理由はそれだけなんだけどな。
きっかけなんて何だっていいんじゃないか?」
「・・いやでも。
でも、どうして俺を?」
「気になるか?
まあ座れ。」
「気になります。だからこうして聞きに来てるんです。」
「そういうところだよ。」
「え?」
「合格か不合格か、普通の学生は結果にしか興味がない。
でもお前は違う。
結果よりもまず理由。
どうして何で、どうして何でってな。
いそうでいないんだよな、そういうヤツって。
最初に、会った時から言おうと思ってたんだけどな、
お前は法医学に向いている。」
「・・・」
「それに、もう手続きしちゃったからなー。後には引けないな。」
「・・・」
後日、佐川の研究室には大己、亮介、佳奈子、哲平、羽井彰の
ゼミ生5人と、助教の夏井川玲子(矢田亜希子)の姿があった。
「今配ってもらっているカリキュラムに従って授業を進めていきます。
私がいない時は彼女が実習から講義までを担当します。
玲子君、一言!」
「助教の夏井川玲子です。よろしく。」
「あの顔すっげータイプなんですけど。」亮介が大己にささやく。
「性格キツそうじゃん。」
「そこがいいんだよ。」
「そこ何喋ってるの?やる気ない人は出てっていいのよ。」と玲子。
「すみません。」と亮介。
「ゼミ生は君たち5人で全員。」
「・・・」
「今日からこの5人で、実習や課題に取り組んでもらいます。
みんな仲良くするように、いいね。」
「はい。」
「法医学の第一義は人の死因を解明すること。
ただ、死因究明制度がちゃんと整備されていない日本では、
非常死した遺体のおよそ一割しか解剖がなされていないのが現場です。」
「たった一割ですか・・」と亮介。
「解剖を行う医師も不足しているし、解剖したくても予算の都合上
出来ない地域も多いの。」と玲子。
「死者の体は、その人が最後に伝えたかった言葉を明確に、
語りかけてくれます。
法医学者にしか聞こえない声がある。
その声をつなげるのが、俺たちの仕事だ。」
「この解剖室では、司法解剖、行政解剖、合わせて年間約300体の解剖を
行っているわ。」と玲子。
「300体!?」と亮介。
「解剖ってこんなもの使うんですか?」ハブラシやおたまを手に取る大己。
「それ、さっき使ったばっかりだからあまり触らないほうがいいと思うけど。」
大己は玲子の言葉に驚いて道具を落とす。
「解剖終了後、この組織片を顕微鏡で検査します。
肉眼ではわからない病変を、組織学的に検査するの。
ねえ君、これ先に実験室に運んでおいて。
蕪木さん、来てるから。」玲子が大樹に瓶を渡す。
「え?俺?」
「お願いします。」
「俺が行きましょうか!?」と亮介。
「君には頼んでない。」
「何かあれば言ってください。何でもやりますから。」
「じゃあ、とりあえず黙って。」
「はい、頑張ります。」
「ドント・マイケル。」大己が亮介の肩を叩く。
「何言ってんだ。早く行けよ!」
大己が隣の部屋に瓶を持っていくと、蕪木技官(泉谷しげる)は
ヘッドフォンをし大音量で音楽を聴きながら作業していた。
「あのー。」
大己が声を掛け、肩を叩く。
「誰だお前!」
「新しくゼミに入った4年の加地です。
あの、これ運べって言われて。」
「そこに置いとけ。」
「あ、Perfume!」ヘッドフォンの音漏れに気づく大己。
「なんだお前聞いてんのか?」
「はい、武道館行きました。」
「チッ!
今年は何人入ったんだよ。」
「あ、5人です。」
「それは相変わらずしけたゼミだねー。」
「それ何ですか?」
「人間。」
「え?」
「心臓、肺、肝臓、脳。
ここにあるのは全部、元は一人の人間だ。」
「・・・・・」
そこへ玲子がやって来た。
「蕪木さん、これだけ別に検査掛けてほしいんですけど。」
「失礼しまーす。」大己が部屋を出ていく。
「お願いしますね。」と玲子。
「はいよ。」
「蕪木さん、今年はゼミ生何人残ると思います?」
「また掛けるのかい?」
「もちろん!今年こそはリベンジしないと。」
「じゃあお先に。」
「いいんですか?私今年は結構自信あるですよ。」
「どうぞ。」
「ゼロ!」
「じゃあ俺は、5!」佐川教授が奥の部屋から出てきた。
「まったく、お前達二人は!賭け事ダメダメ!!」と蕪木。
「まー昔から俺は、番狂わせを期待しちゃうタイプでね。」と佐川。
「佐川先生、電話!
南府中署の大和田さんからです。」
「はい。
お電話変わりました、佐川です。
司法ですか?行政ですか?
許可状は発行されていますか?
遺体の状況は?
わかりました。じゃあ1時から始めたいと思いますので
ご遺体の搬送をお願いします。
はい失礼します。」
電話を切ると、佐川は玲子に言う。
「1時から司法解剖。
それから5人も立ち会ってもらおうか。」
「はい、わかりました。
行きましょう。」
「はい・・」戸惑いながら席を立つ5人。
解剖準備室
慣れない手つきで準備する5人。
「準備は出来た?」と玲子。
「今行きます!」
不安そうに解剖室へと移動していく大己、
遺体を目にすると、大きく息を呑む。
「南府中署の刑事さん。」玲子が紹介する。
「大和田だ。」
大和田刑事(山崎樹範)が5人の顔に警察手帳を近づける。
「死亡者は、市原良平50歳。
職業は電気工事士。
現場はオフィス街の建設現場前。
第一発見者が見つけたのは、昨日日曜の午後3時20分頃。
そのときはわずかに意識があったそうだが、病院で間もなく、死亡。
現場の状況から見て、近くのビルに修理に向かう途中に
落下物の下敷きになった模様。」
「落下物というのは?」と玲子。
「まだ見つかってない。
恐らく犯人は、証拠隠滅の為に持ち去ったんだろう。」
「他殺なの!?」と亮介。
「タメ口!?」と大和田。
「あ、すみません。」
「事件当日、建設現場は休みだった。
作業中に誤って資材が落下した可能性はない。
犯人は、休みだった現場に侵入し、市原さんを狙って故意に落とした。
そう考えるのが妥当です。」
「・・・」
「では始めます。
よろしくお願いします。」
「よろしくお願いします。」
「まず最初に頚部から恥骨上部まで正中切開します。」
「うわ・・すげー・・」顔をしかめるゼミ生たち。
「皮下脂肪2センチ。」と玲子。
「鎖骨が折れてるな。写真お願いします。」と佐川。
「はい。」
脚立に乗って写真を撮る警察官。
「次に横隔膜の高さを、肋骨の下に手を入れて計ります。」
堪えきれずに倒れこむ彰。
「大丈夫ですか?」哲平が声を掛ける。
大己は瞬きもせずに解剖を呆然と見つめている。
「おい、お前も大丈夫か?」と亮介。
「・・・あの人さ、昨日まで普通に生きてたんだよな・・。」
目に涙を浮かべてそう呟く大己。
「・・・」
解剖が終わり研究室に戻った大己たち。
亮介が報告書を読み上げる。
「前頭骨を陥没骨折。
前頭骨に被った衝撃は、およそ10メートルの高さから30キロ程度の ら 落下物が当たったものに相当する。
死因は、その衝撃による、頚椎骨折による頚隋損傷、だってさ。」
「30キロのものって言われても、なかなか思い浮かばないですよね。」と哲平。
「薄型の液晶テレビ46インチがおよそ30キロ。
全自動洗濯機もそんなもんだよ。」
彰は荘言いながらソファーから起き上がる。
「詳しいね。
ね、他にも何か、あるか?」と亮介。
「子供用のベッド。高級リクライニングチェア。12畳のペルシャ絨毯。」
「いや、絨毯じゃ人は死なないと思いますけど。」哲平が笑う。
「30キロぐらいな物答えてるだけだろ!」
「はい・・すみません。」
「まーまーまー。
でもさ、この人、何でおでこの辺り骨折しているんだと思う?」
「・・・普通、上から物が落ちてきたら、頭頂部だよね。」と大己。
「上を見上げてたから。」と佳奈子。
「あ・・確かに。」と大己。
「考えなくてもすぐわかりそうなことだけど。」
「じゃあどうして上向いたの?」
「いや知らないよ。」
「上を見るときねー。」と亮介。
「羽井君は?どんな時上向く?」
「夕焼け見たり星見る時。」と彰。
「意外とロマンチックだね!」
哲平がまた笑い、怒った彰が掴みかかる。
「人間って、こういう状況の時も上向くんですね・・。」と哲平。
「確かによっぽどのことがないと人って、上向かないんだよな。」と大己。
「あの!今よっぽどの状況なんですけど・・
聞いてます!?
落ち着いて下さいよ。顔だけはやめて下さいよ!」と哲平。
帰り道
「これだけ学生がいるのに誰も上向いていませんね。」と哲平。
「そうなんだよ。人って意外と上向かないんだよ。」と大己。
「俺、ここにいる半分ぐらいの人だったら上向かせる自信あるな。」と亮介。
「マジ!?」
「出来たらジュース奢れよ。」
「いいよ。」
「危ない!!」
亮介が叫ぶと、周りの人たちは上を見上げて身体をかがめる。
「すげー!」と大己。
「何いきなり!」と佳奈子。
「グランドの横とか歩いてるとさ、ボールとかよく飛んでくるだろ?
だから、みんな危ないって聞くと、反射的に上見るの。」と亮介。
「・・・今から現場見にいかない?」と大己。
「お!いいね!みんなで行こうぜ。」と亮介。
「でも、現場まで結構遠いですよ。
電車乗り継いで1時間ぐらい掛かりますが。」と哲平。
「みんなで行けば、遠くない。」と彰。
「いやいや、遠いですから。」
哲平を睨みつける彰。
「・・すみません。」
「よし!じゃあ決まりだな。」と亮介。
「ちょっと待ってよ。
現場を調べるのは警察がやること。
わざわざ行かなくても資料見て想像すればいいでしょ。
そのために解剖して、あんな膨大なデータ取ったんじゃない。」と佳奈子。
「・・・A4の紙3枚。
内臓切り刻まれて機械に掛けられて、数字になって。
でもあの人は昨日まで普通に生きていた。
どんな場所で、どんな道を歩いて、
どんなことで死ななきゃいけなかったのか、
俺はすごい気になるんだよね。」と大己。
「興味本位で首を突っ込まない方がいいと思う。
そんなことしたって、生き返らせるわけじゃないんだし。」
佳奈子はそう言い、みんなの前から立ち去った。
大己、亮介、哲平、彰は市原の死亡現場である建設中の
ビルの前にやってくる。
「思ってたより低いな。」と大己。
「僕も、10メートルってもっと高いかと思ってました。」と哲平。
花束が供えられた場所に向かって手を合わせる大己たち。
「まあ、でも、これだけ静かな場所だったら上でちょっとした物音が
しただけで、上見るよな。」と亮介。
「だったら尚更落下物に気づいたら避けられると思わない?」と大己。
「近くに来るまで気づかなかったとか?」と亮介。
「それに、長いものとかだったら、どんなに早く気づいても
当たっちゃうと思うんですよね。」と哲平。
「長いものか・・。
だったら、被害者に当たった後に、地面に接触しているはずだよね。」
大己の言葉に、哲平は地面に腹ばいになり調べてみる。
「報告書にもありませんでしたし、
そういう痕も見当たりませんね。」
「ね、被害者って発見された時どこにいたんだっけ?」と大己。
「ビルの脇にある花壇に向かって突っ伏す格好です。
ひざを地面に付け、手を伸ばしたまま気を失っていた。」
亮介はメモを読み上げる哲平に、その格好を真似てみるよう
目で合図する。
「え!?僕がやるんですか?」
「そういうの上手そうじゃん。」
彰に睨まれ仕方なく従う哲平。
「第一発見者の証言。
遠くから見たら、まるでお祈りをしているようだった。」と亮介。
「確かに、変な格好だ。」と大己。
「近づいて呼び掛けてみたら、意識はあったが言葉は発せず、
表情は、微笑んでいるように見えたので、驚いた。」
亮介に合図され微笑みを浮かべてみる哲平。
大己は、その話を聞きながら、周囲に置かれた花束を見つめていた。
後日、研究室
「あなた達、法医学って何だか履き違えてない?」
玲子が4人をしかりつける。
「・・・」
「現場で推理ごっこしている暇があったら、
解剖の手順を身体で覚えなさい!
分析したデータを穴が開くほど見比べなさい!
論文を徹底的に読み返しなさい!
わかった!?」
「はい・・。」
玲子が研究室を出ていく。
「何も収穫ありませんでしたね。」と哲平。
「そうだね。」と亮介。
「ま、結局データが全てなんですけどね。」と哲平。
「じゃあ、お先に。」と彰。
「お疲れ様です。」と哲平。
「あ、ちょっと!哲平!」大己が呼び止める。
「はい。」
「ちょっと、それ借りていい?」
「かまわないですけど。
お疲れ様です!」
哲平は持っていた資料を渡し、帰っていく。
「お疲れ!」
「よし、俺も行くわ。」と亮介。
「あ、亮介!今日時間ある?」と大己。
「いや、今からバイト。どうして?」
「うん?
ちょっと・・気になる場所があってさ。」
「お前も懲りないねー。」
亮介も帰っていく。
佳奈子を見つめる大己。
その視線に気づき嫌そうに顔を上げる佳奈子。
行かない?とジェスチャーする大己。
「バカみたい!」
「・・・」
大己は一人でもう一度現場を訪れると、次の場所へと向かう。
研究室
資料を読む佳奈子。
『金属加工工場でのガスボンベ爆発事故』
(回想)
母親の葬儀の席、小さい弟の手を握り締める小学生の佳奈子。
そんな中、大人たちの声が聞こえてくる。
「可哀想に・・。心臓発作だって。」
「過労だろ?一人で働きすぎて・・。」
「あんな小さい子供たち残して・・。」
「母さんの足に、アザがあるのおかしいもん!」と佳奈子。
「佳奈子ちゃん、心臓発作だから、アザは関係ないんだよ。」
「信じたくない気持ちはわかるけど、
これからはあなたがしっかりしなくちゃダメなのよ。」
(回想終わり)
大己は市原が勤めていたヤマト電機を訪ねていく。
「いや、しかし可哀想だよな。
身寄りもいないし、葬式もやらねーって言うんだからさ。」
「市原さんってどんな人だったんですか?」
「地味な人だったよ。
たまに仕事帰りに飲みに行く程度の中だったんだけどさ。
昔は奥さんがいたなんて。警察に聞いて初めて知ったんだよ。
過去の話は、あまりしたがらなかったからな。」
「・・変なこと聞きますけど。
もしかして・・市原さんって反射神経悪かったですか?」
「反射神経?
そんなことわかんないよ。」
「ですよね。」
「別に、運動音痴には見えなかったしな。
あ!そういえば、一緒に飲みに行った時に、
居酒屋で野球の中継が始まったら、テレビ消してくれって
頼んでたよ。
それで他の客と一回もめた事がある。」
「野球ですか・・。」
「もしかしたらあんまり、スポーツとか好きじゃなかったのかも
しれないな。」
「・・・」
石末総合病院
カルテを運んで回る亮介。
亮介とすれ違うスタッフは皆丁寧にお辞儀をしていく。
「亮介!」父・石末院長(名高達男)が呼び止める。
「こいつね、島田先生のところで、世話してもらうことになってね。」
他の医者たちに嬉しそうに話す石末。
「島田ゼミって言ったら、名門じゃないですか!」
「じゃあ病院長を継ぐ日も近いですね。」
「さっさと一人前になって、楽をさせてもらいたいもんだな。」
父親たちに会釈をして見送る亮介。
「楽させてもらいたいもんだな。」看護師が声を掛ける。
「奈津美か。」
「その荷物、お持ちいたします。」
「何だよ急に。」
「次の病院長先生になる人ですから、今のうち優しくしておいたほうが、
得だなーと思って。」
「こんなでかい病院、俺なんかの手に負えないっつーの。」
「・・頑張ってね!応援してるからさ。」
奈津美の言葉に微笑み立ち去る亮介。
夜、現場に座り込み、ビルを見上げ、コンビニのおでんを食べながら、
大己は佐川教授の言葉を思い起こす。
"e;法医学者にしか聞こえない声がある。
その声をつなげるのが、俺達の仕事だ。"e;
大学の食堂でテレビを真剣に見つめる亮介。
どうやらサスペンスドラマを見ているらしい。
テレビを消してしまう大己。
「おい!何してんだよ早く付けろよ!
やっと出てきたんだよ、遺言状!!」
「変だよね。」
「はい?」
「野球が嫌いだからってわざわざテレビ消せって言うと思う?」
「何の話だ?いいから早く遺言!!」リモコンを奪い返そうとする亮介。
「市原さん、居酒屋で野球中継のテレビ消して他の客と揉めたらしいんだよ。」
「まだそんなことやってんのかよ。」
やっとリモコンを取り返した亮介だが、ドラマは終わってしまっていた。
「終わってるし・・」
「どうしてそんなに野球嫌いなんだろ。」
「また!どうしてどうしてって・・。」
「いただきまーす!」
「あの、すみません。これ。」哲平が何か持ってきた。
「何これ?」
「ゼミの親睦会の案内です。」
「これが?なんだこのデザイン!
哲平が幹事やるの?」
「いえ、羽井さんが。」
「何で!?」
「なんか、全員で一回飲まなきゃ落ち着かないって。」
「羽井君ってなんか変だよね。」
「あれは?アキちゃん誘ったの?」と亮介。
「誰ですか?それ。」
「いるじゃんかよ。うちのゼミの唯一のヒロイン。」
「アキなんて名前だったっけ?」と大己。
「苗字は、久保秋だろ?
めんどくさいから、アキちゃんでいいかなーって。」と亮介。
「さっきチラシは渡しましたけど。」
「ま、来ないだろ、あいつは。」と大己。
沖縄料理店「ちゅらちゃん」
「・・本当に、ここ実家なの?」亮介が彰に聞く。
「なんか文句あんのかよ!」
「いや、別に・・。素敵なお店だなーって。」
「医者の息子はなかなかこういう庶民的な店来ないもんねー!」と大己。
「・・・そんなことないよぉ!」と亮介。
「大己さんちは、医者じゃないんですか?」と哲平。
「うん、うち、普通のサラリーマン。」
「哲平んとこは?」と亮介。
「うち、仙台で歯医者やってます。」
「歯医者なのになんで医学部来たんだよ。しかも法医学って。」
「僕も、普通に歯医者継ごうかと思っていたんですけど、
たまたま海外の監察医のドラマ見てハマっちゃったんですよね。」
「そんな単純な動機ですか・・。」と亮介。
「スラムダンクに感動して高2からバスケ始めたの誰だ!?」と大己。
「海外ドラマとスラムダンク一緒にされたら困ります!
逆にどうすればスラムダンク読んでバスケ始めずにいられるのか
聞いてみたいね!」と亮介。
「あの漫画はこの国の宝だ!」と彰。
「羽井君も好きなの?」と亮介。
「泣きたい夜は・・酒か漫画だ!」
羽井鳳子(濱田マリ)がテーブルにやってくる。
「ごめんね、お待たせして。
お料理何にします?」
「ゴーヤチャンプル2つと、」
「うちゴーヤ置いてないんだ。」
「え?」
「私がほら、ゴーヤ苦手じゃない?」
「ここ沖縄料理屋ですよね?」と大己。
「彰が大学の友達連れてくるなんてびっくりよ。
みんな男前だしな。」
「あれ?無視された。」と大己。
「いいからあっち行けよ。」と彰。
「あんたが族入ってた頃は、髪の毛の黒い友達なんて
一人もいなかったもんねー。」
「・・・・・え、ゾクっていうのは?」と亮介。
「あらやだ!聞いてなかったの?」
「まあ、なんとなくそうかなーとは思ってたんですけどね。」と亮介。
「本当にそういうようなこととは、ねえ。」と大己。
「替え玉事件!」
哲平が笑いながらそう言うと、彰は哲平の首根っこ掴んで表に連れ出し!?
「嘘です!助けて~!」
大学
佐川は研究室に一人残って勉強を続ける佳奈子に気づく。
「親睦会行かなかったの?」
「はい。あまりお酒の席とか好きじゃなくて。」
「そう。それは残念。
俺も玲子君誘って行こうかなと思ってたんだけど、
会議が入っちゃってさ。
誰が書いたんだこれ。上手いな!」親睦会のチラシを手に取る佐川。
「先生。」
「うん?」
「どうすれば、優秀な法医学者になれるとお考えですか?」
「いきなり難しい質問だね。」
「すみません。」
「うん・・普通であり続けることかな。」
「普通ですか?」
「うん。
遺体を扱うという特殊な環境にいるかもしれないけども、
いかに、普通の感覚を持てるかってことが、大事かな。
事件に憤りを感じたり、遺族の気持ちになって悲しんだり、
ここにずっと長くいるとさ、そういう当たり前の感覚を、
ふと忘れそうになる瞬間があるんだよ。
だから、みんなと一緒にのみに行くってことも大事なことだと思うよ。
人はどんな時に笑ってどんな時に楽しいって思うのか
忘れちゃ困るもんな。」
そう言い立ち去る佐川。
佳奈子は親睦会のチラシを見つめ・・。
ちゅらさん
「え?まだ調べているんですか?」と哲平。
「昨日働いていた職場までわざわざ行ったんだって!
暇なヤツだろ?」と亮介。
「なんか、わかったのか?」と彰。
「うん。離婚歴があるってことと、野球が嫌いだったってことくらいかな。」
「そんなこと聞くために電車で1時間だぜ。信じらんない。」と亮介。
そこへ、佳奈子がやってくる。
「あ!アキちゃん来た!こっちこっち!」と亮介。
「私さ、いつからアキちゃんになったの?」
「今日から。」
「アキちゃん、何の見ますか?」と哲平。
「じゃ、生。」
「生一つお願いします!」
「絶対来ないと思ってたけどな。」と大己。
「女子は当然タダなんでしょ?」
「はい残念!」三人が声を揃えて言う。
「チラシをよくご覧下さい。
ここにですね、女性の参加費は1万円って書いてあるんですね。」
「何これ・・詐欺じゃないのよ、ちょっと!」
「作った羽井君に言えよ。」と大己。
「みんなで現場見に行く時に和を乱したバツ。」と彰。
「はぁ!?」
「冗談だよ冗談。
今日はさ、大己が奢ってくれるから心配するなって。」と亮介。
「ご馳走様です!」
「ふざけんなよ!」と大己。
「アキさん知ってました?
羽井君って、昔ヤンキーだったんですよ。」と哲平。
「へー。そうなんだー。」
「あれ?アキさん全然驚かないんですね。」
「そうなのかなーって思ってたからさ。」
「そっかー!そう思ってたんですね!」
「何こっそりアキさんアキさん連呼してんだよ。」と亮介。
「そんなつもりじゃ・・」
「はいお待ち。」彰がビールを持ってくる。
「ねえ、どうしてうちの大学に入ったの?
元々法医学やるつもりで?」佳奈子が彰に聞く。
「ああ。俺法医学のお陰で刑務所入らずに済んだからさ。」
「・・・・・」
「・・どうしてですかって聞けよ!!」
「いや、あんま、突っ込んで聞いちゃいけないのかなと思って。」と亮介。
「会話で、刑務所行きの話とか出てきたことないんで、
体がびっくりしちゃって。」と哲平。
「・・・絡んできた相手が、死んじゃってさ。
警察は、一発も殴っていないのに、俺を犯人だと決め付けた。」
「・・・」
「司法解剖の結果、死因は脳出血だったが、
持病によるものとわかった。
法医学がなかったら、俺の人生は全く別物となっていたんだよ。」
「あの日からきっぱり族やめて、死ぬ気で勉強したのよ。
学費も自分で払うって、勉強しながら引越し屋のバイトで、
お金貯めてね。」と母。
「だから物の重さに詳しかったと・・。」と亮介。
「この子苦労して頑張ったんだよー。」
「別に頑張ってねーし。」と彰。
「すっげー頑張ってたっすよ。」と母。
二人の話に穏やかに微笑む4人。
「よし!じゃ乾杯しよっか!な!アキも来たことだし。」
「何サラっと呼び捨てにしてんだよ。」と亮介。
「今さりげなかったですねー!」と哲平。
「別にいいじゃん。あだ名なんだし、ね!」
「奢ってくれるんだったら呼び捨てでもいいよ。」と佳奈子。
「いや、奢らないよ。」
「ケチ!」
「ケチって、言えばいいと思ってるんですか?」
「はいはいはい、じゃ、これからも、仲良くやっていきましょうと
いうことで、乾杯!」と亮介。
「乾杯!」
「あー、美味しい!」
「美味しいね、アキ!
アキ、エビ、食べる?」大己がエビの作り物を見せる。。
「食べない。」
「タイ、食べる?」
「どっから持ってきたんだよ・・」と亮介。
「やだこの酔っ払い!」
大学の図書館で調べ物をする大己たち。
「ねえ、これ見て!今回の事件と似てない?」と佳奈子。
「額からあごに掛けての粉砕骨折。
被害者の頭上から、20キロ相当の鉄骨を落とし、
犯行後に持ち去る。
かなり似てるな。」と亮介。
「やっぱり、建設現場の資材が凶器に使われたんですかね?」と哲平。
「でも鑑識の調べでは、資材から事件性のある反応は出なかったって。」と佳奈子。
「ねえ、おでこの陥没以外に骨折のある箇所ってどこだったっけ?」と大己。
「鼻骨と鎖骨、頚椎、あと左右前腕の尺骨。」と佳奈子。
「左右前腕の尺骨?」と大己。
「そう。
花壇に打ち付けたと思われる打撲の痕も残ってる。」
「変だな・・」と大己。
「何が?」と佳奈子。
「どうして外側なんだろ。
落下物から逃げようとする人が、腕の外側下に向けるかな。」
「どういうこと?」と亮介。
「上から物が落ちてきたらどうやって逃げる?」
「まあ、こう?」
「手のひらを上に向けて逃げる人なんていると思う?」
「うん・・確かにおかしいかも。
もし普通に歩いていたとしても、外側ぶつけるって変だよね。」と佳奈子。
「発見された時の被害者ってどんな格好だったっけ?」と大己。
「よし、哲平!」と亮介。
「え?またですか?」
首をコキコキ鳴らす彰。
「・・・はい!」
哲平が姿勢をまねる。
「羽井君、何に見える?」大己が聞く。
「雨乞い。」
「雨乞いって!・・すみません。
雨乞い・・雨、雨よ降れー!」と哲平。
「これじゃゴール決めたときのサッカー選手じゃないかな。」
「ゴーーール!決めたのは、戸田!」
こめかみを人差し指で軽く叩きながら考え込む大己。
大己の脳裏には、さまざまな情報がフラッシュのようによぎっていく。
そして、それがひとつになったとき、あることがひらめく。
「受け止めたかったんだ!」
確信に満ちた表情で言うと、どこかへ走り去る。
亮介らは、わけもわからないままその後を追う。
大己らがやってきたのは、市原の別れた妻・川鍋秀子(美保純)の
アパートだった。
「あの・・市原良平さんの件で伺ったんですが・・」と大己。
「中に入ってもらえますか?」と秀子。
「あの人とは、もう20年も会ってませんでした。
まさか、こんなことになるとはね。」
「市原さん、野球お好きだったんですね。」
「・・ええ。」
「最初はずっと、野球が嫌いな人だと思っていたんです。
ここに来る前聞いてきたんですが、学生時代、ずっと野球部
だったんですね。」
「あの人、息子の誕生日に、野球のグローブを買ってあげたんです。
息子にもやらせたかったみたいで。
あの子が、小学校1年の時でした。
・・・私たちが、留守にしている間に、ベランダから転落したんです。
現場には、ボールが転がっていて、手にはグローブをはめていました。
警察の方の話では、手すりから身を乗り出してボールを取ろうとして、
そのまま転落したんだろうって。」
「・・・」
「あの人・・ずっと自分を責めてました。
グローブなんて買ってやったからだ。
野球なんてやってたからだって。
私たち・・あの子の死を乗り越えられなくて・・
あの事件から、1年もしない間に、別れてしまったんです。
あの人・・最後まで可哀想な人だった・・。」
「それは違うと思います。
市原さんは・・一人の命を救ったんです。」と大己。
「・・・」
「あの日、見上げたビルの屋上には、恐らく子供が立っていました。
重さ30キロといえば、小学校4年生ぐらいでしょうか。
その子が・・・自殺しようと思って、飛び降りたんだと思います。」
「え・・自殺?」
「息子さんと同じ位の子が、飛び降りようとするのを目撃した瞬間、
市原さんは、手を伸ばして救いに行かずにはいられなかったんじゃ
ないでしょうか。」
(想像)
ビルの屋上から子供が飛び降りた瞬間、市原は持っていた工具を
放り出し、子供を救おうと両手を差し伸べ走り出す。
「・・・その子、どうなったんです?」
「きっと助かった。僕はそう思います。
落下物は現場になく、いまだに発見されていません。
地面に、何かが落ちたような形跡も見つかりませんでした。
その子は、歩いて帰ることが出来たんだと思います。
市原さんは、遠ざかる意識の中で、その子に向かって言ったんじゃ
ないでしょうか。
いいから、行きなさいって。」
(想像)
「おじさん・・」
「気にしなくって、いいんだよ・・。
行きなさい。」子供に微笑みながらそう語る市原。
「行きなさい。
生きていくんだ。
もう・・死ぬなんて思っちゃダメだよ・・。
ほら、行きなさい。」
「おじさん・・」
「行きなさい。」
子供は市原に背を向けて歩き出し・・。
「市原さんにしか・・救えなかった命だと思います。
いや・・救ったのは命だけじゃないのかもしれない。
すごいなーって、思いました。」
「・・ありがとう。」大己の話に泣き出す秀子。
大己は拳を握り締め・・。
大学
玲子が佐川にDNA鑑定の結果をを届ける。
「被害者の洋服に付着していた髪の毛は、別の人間の髪の毛で、
毛根から小学生ぐらいの年齢と判明しました。
教授が仰っていたとおり、市原さんの歯に付着していた血液と
同一人物でした。
警察には報告済みです。」
「わかりました。ご苦労様です!
あ、コーヒーでも飲んでく?」
「はい。
教授、ゼミ生のことなんですが。」
「うん。」
「今日も無断で外出しておりまして、レポートの提出期限を誰も
守っていません。」
「そりゃ困ったもんだ。」
「教授からも厳しく言っていただけませんか?
彼らの行動は、法医学から外れすぎです。」
「そうかもしれないね。」
「それに加地大己、志望者じゃないのに拾ってくるなんて、
どういうおつもりですか?
わざわざうちに入れるほどの人材とはとても思えないんですけど。」
「あいつにはじめてあった時から、ずっと法医学に向いていると
思ってたんだ。
まさかこんな所で会うとはね。」
「仰っている意味がわかりませんが。」
「はいどうぞ。」
「すみません。いただきます。」
「玲子君さ、法医学を志す人間にとって必要な資質って何だと思う?」
「医学的なあらゆる知識と、客観的な判断。」
「うん。それだけじゃないんだ。
イマジネーション。
常識に囚われない自由な発想がこれからの法医学にもっと
求められるような気がするんだ。」
「だとしても、教授の意見は納得できません。
あんな無謀な賭けするなんてどうかしてるんじゃないんですか?」
「え?」
「ゼミに5人全員残るだなんて、あり得ません。
もっとこう、イマジネーション?働かせて下さいね!
ご馳走様でした。失礼します。」
スクラップブックを広げる佐川。
そこには、新聞記事が貼り付けらていた。
『地下鉄事故18人死亡
放火、事故両面で
突然の惨劇・
ベッドタウンが騒然』
その時のことを思い起こす佐川。
15年前
被害者を懸命に救助する佐川。
「しっかりして下さい!お母さん!頑張って下さいね!」
心臓マッサージを施すが、女性は息絶え、
彼女の手から鈴が音を鳴らしながら転げ落ちる。
「死んでる者は後回しだ!お前は治療テントの方に回れ!」
「はい。」
女性の元を離れようとした時、鈴の音がまた鳴る。
少年が拾ったのだ。
「このお母さん・・声が出なくなっちゃったんだね。
もうちょっとだよ、頑張れって、言ってあげられなくなったから、
鈴、鳴らしてあげたんだね、きっと。」
少年はそう佐川に言うと、ベビーカーで何も知らずに母を待つ
赤ん坊の元へ行き、鈴で赤ん坊をあやす。
少年を見つめる佐川。
手に巻かれた包帯には血が滲んでいる。
名札には、『加地大己』と書いてあった。
まだ幼い大己な涙を必死に堪え、赤ん坊をあやしていた。
(回想終わり)
新聞記事を見つめる佐川。
『死者 キシノさん、キムラさん、他身元不明8人』
軽症者のリストに、大己の名前も載っていた。
秀子の家を出た5人。
「大己、いつ、子供だと思ったの?」亮介が聞く。
「え?・・最初に現場に行った時かな。」
「そんなに早くからですか?」と哲平。
「道路わきに、花束が置いてあったでしょ?
花屋で売ってる包装された花束に混じって、
一つだけ、野原で一生懸命摘んできましたって感じのがあったんだよ。」
「そんなのあったか?」と亮介。
「全然覚えてないですね。」と哲平。
「あの辺はオフィス街だし、市原さん独身だったから、
どうして子供が作った花束が置いてあるんだろうって不思議でさ。」
「ふーん。」
「その花が妙に懐かしかったんだよねー。」
「懐かしい?」
「小学校の時初めて女の子に貰った花束が、あんな感じだったんだ。
こう、茎のところピンクのゴムで止めてあってさ。」
「それって昔はモテたって自慢?」と佳奈子。
「そんなんじゃないから。」
「俺は、ハルジオンだったな。」と彰。
「ハルジオン?」と大己。
「うん。
初めて女の子から貰った花。
よく野原に咲いてる、ひょろっとした白と黄色の花あるだろ?」
「あ!知ってます。それ、僕の地元では貧乏花って呼ばれてました。」と哲平。
「あ!懐かしい!私の地元でも貧乏花って呼んでた。」
「・・・」
カバンを投げ捨て哲平に突進する彰。叫びながら逃げ出す哲平。
「ごめんなさい!すみません!冗談です、冗談!!」
事故現場
「やっぱ俺には出来ねーな・・。」と亮介。
「うん?」と大己。
「市原さんと同じ事。」
「うん。」
そんなとき、花束のところにしゃがんでいた佳奈子が、
1枚のカードを見つける。
「ねえ・・」
そこには、子供の字で
『ごめんなさい。
ありがとうございます。』
と書いてあった。
「人はいつか必ず死ぬ。
それでもその死から、かすかな声を必死に拾おうとする者たちがいる。
医大に入って4年目の冬、僕らは、失われた命を救う医学と出会った。」
カードを花に立てかけ小石で固定させる大己。
「行こうか。」
5人が帰っていく。
若い5人は、それぞれの思いを抱えて、または導かれて、
法医学ゼミに集まりました。
大己には並み外れた勘のよさと洞察力、自由な発想力があるそうです。
佐川教授に強引に法医学ゼミに入れられてしまいました。
「最初に、会った時から言おうと思ってたんだけどな、
お前は法医学に向いている。」
教授は大己が幼い頃に事故現場で会っていたんですね。
小学2年生の大己は、自分も怪我をしているのに、
母親を亡くした赤ん坊をあやしていました。
「このお母さん・・声が出なくなっちゃったんだね。
もうちょっとだよ、頑張れって、言ってあげられなくなったから、
鈴、鳴らしてあげたんだね、きっと。」
大己は小学生の頃から死者の声を聞こうとしていたんですね。
そんな本能のような才能を佐川はずっと忘れられずにいた。
初めて遺体を前にした時の大己の瞳に涙が溜まっていたのが
印象に残りました。
考え込みながらあごに触れる仕草、
こめかみを人差し指で突きながら考える仕草もいい感じ。
決めポーズとなっていくのでしょうか。
彼の洞察力、イマジネーションから出来た仮説を被害者の家族に話すのは、
もしも間違っていたらどうなるのだろう、とちょっと考えてしまいました。
大己は確信を持っていたからこそ話したのだろうけれど。
後にデータ的にも大己の言ったことが証明されてほっとしました。
佳奈子はは母親の死に納得できなくて、このゼミを選んだようです。
この辺もじっくり見てみたいです。
佳奈子の髪の匂いは本当にラブホで付いたものなのか!?
恋人がいる描写はありませんでしたね。
亮介は親への反発から法医学ゼミを選んだんですね。
いつか父親に認められるようになると嬉しいです。
哲平は、監察医を描いた海外ドラマにハマり法医学を選んだ。
今後彼の知識が役立つことも、とあるのでどんな風に活躍するのか
楽しみです。
彰は法医学が無実を証明してくれたことに感謝し、この道を選んだ。
元族だけど、解剖が苦手で倒れてしまう。
ちょっと哲平をいじめすぎな気もしちゃいましたが、
子犬がじゃれあっているようなものなのか!?
「死者の体は、その人が最後に伝えたかった言葉を明確に、
語りかけてくれます。
法医学者にしか聞こえない声がある。
その声をつなげるのが、俺たちの仕事だ。」
佐川教授の、自分の仕事に誇りを持つ言葉が心に響いてきます。
玲子役には久々登場の矢田亜希子さん。
「現場で推理ごっこしている暇があったら、
解剖の手順を身体で覚えなさい!
分析したデータを穴が開くほど見比べなさい!
論文を徹底的に読み返しなさい!
わかった!?」
直感で動く大己たちを叱り飛ばす、怖い先輩役です。
彼女の言い分は最もなので、ドラマのいいスパイスとなってくれそうです。
小学生の佳奈子役には山田夏海ちゃん。
『あなたの隣に誰かいる』の鈴ちゃん、大きくなりました!
矢田さんにどことなく似ている、と思いました。
脚本家の成田岳さんとは『あな誰』繋がり。
大己の子供時代には、加藤清史郎君。
『天地人』では初回から泣かせてくれました!
これからの活躍が楽しみな子役の一人です。